▼『偽書「武功夜話」の研究』藤本正行,鈴木眞哉

偽書武功夜話の研究 (新書y 61)

 一九五九年の伊勢湾台風で,愛知県内の旧家の崩れた土蔵から発見された「前野文書」は,のちに『武功夜話』と題して公刊された.同書はNHK朝日新聞などのメディアが,戦国時代を解明する第一級の史料として喧伝したり,遠藤周作津本陽らの有名作家の作品に種本として使われたことから,その内容が史実として一人歩きすることになる.しかし,同書はその原本が公開されていないために,用語や記述に多くの疑問がありながら,専門家の検証すらなされてこなかった.在野の戦国史研究の第一人者が,様々な角度から徹底検証し,真贋に決着をつける――.

 書は,前野文書(『武功夜話』)の史料的価値を在野の研究家2人が猛批判し,第一級とされるには言語道断な文献であることを検証したものである.驚くべきことに,『武功夜話』は画期的な歴史書とされたにもかかわらず,所有者(御当主)の親族が現代語訳したものだけが世に出た.

 著名な作家・研究者・映像作家らの礼賛を受け,大河ドラマ化されたという.原本の公開がなされなければ,あらぬ疑いをかけられても仕方がないものだが,明記されるべき重要な情報――たとえば主人公格の前野長康蜂須賀正勝の生没年の“混乱”――までもが乱雑・粗雑に記載されているようでは,偽書と扱われて当然である.

 戦国時代らしからぬ文体・表現・価値観,人物の官職の明らかな誤記,年代の矛盾,確たる史料的裏づけのなさが無批判に評価されたという問題は看過できない.『武功夜話』は,断片的な事実と空想を思いつくままに繋ぎ合わせ,厖大な分量になったが整合性をとることがなかった偽書,と本書は結論づける.

 正当な文献であれば戦国時代の編纂であるはずだが,1954年になってできた新地名が平然と登場してくる.2005年の家系研究協議会で原本コピーを公開されているが,外部への貸出や公開はなされなかった.歴史に学び,時代を読み解く――歴史総合出版を謳う新人物往来社は,1987年『武功夜話』に関しては「黒歴史」と認定されて然るべきかも知れない.

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原題: 偽書武功夜話」の研究

著者: 藤本正行, 鈴木眞哉

ISBN: 4896916263

© 2002 洋泉社