■「オールド」M・ナイト・シャマラン

オールド [Blu-ray]

 休暇で人里離れた美しいビーチを訪れた複数の家族.楽しいひと時を過ごしていた矢先,ひとりの母親が突然姿を消した息子を探している‥‥母親が息子の姿に気付かないのも無理はなかった.なんと6歳だった息子は,少し目を離した隙に少年から青年へと急成長を遂げていたのだ.一体このビーチで何が起こっているのか….

 Mナイト・シャマラン(M. Night Shyamalan)は,常に家族からのインスピレーションを受けて作品を製作してきた.本作は彼にとって最も個人的な作品の一つといえるだろう.一日たりとも目を離すことなく,人生が過ぎ去ることに不安に感じる人々に対して,この映画はかなりの恐怖をもたらすかもしれない.本作は,シャマランが彼の娘から手渡されたグラフィックノベル「サンドキャッスル」を元に脚色されている.家族のバケーションが一転,予測不可能な時間の経過を巡る恐ろしい体験へと変わる様子を描いている.ビーチには他にも家族やカップルが集まり,彼らは一見平穏なバケーションを楽しむつもりだった.しかし,神秘的なラッパーとの出会いを皮切りに,彼らは次第にビーチの異常な現象に気づき始める.大人たちは,ビーチでの30分が外界の1年に相当することを理解し,急速に老化していく自分たちの体に恐怖を感じる.

 シャマランは,この奇妙な状況を通じて,時間の経過と人間の脆さをシュールなトーンで探求する.巧妙な演出と撮影監督マイク・ジオラキス(Mike Gioulakis)の卓越したカメラワークにより,ビーチの美しさは一転して脅威に感じられるだろう.波が打ち寄せ,岩壁が日ごとに高く感じられる中で,キャラクターたちは切迫感と絶望を共有する.彼らの身体的な問題,例えば聴力や視力の低下,認知症の進行が島からの脱出を一層困難にする.この作品は,「トワイライト・ゾーン」的なエピソードであり,「ベンジャミン・バトン」(2008)のような"老化"のアイロニーを探求し,サスペンスで追求している.しかし,本作はテーマ重視の物語であっても,寓意的な性質を持っていない.多くのキャラクターが最初の思考では論理的に飛躍しないであろうことについて指摘している.登場人物は,島から何とか脱出しようと試みるが,いずれもうまくいかないため,生き残った人間がどうやって島から脱出するかは注目に値する.

 人々が老化するビーチを舞台にしたスリラーとミステリーの物語は非常にユニークである.しかし,特定の訪問者が選ばれ,特別な場所に連れて行かれて急速に老化するという顛末は非常に凡庸であり,映画全体に設定されたミステリアスなトーンを剥ぎ取ってしまう.老化と人生の終わり,そして家族との別れに直面する恐怖だが,過去や未来に焦点を当てる代わりに現在に集中する重要性,人々の死に対する意識,時間とともに変わる家族のダイナミクスをエモーショナルに描くことには無理がある.本作にヒューマニズム要素は不要だった.シャマランは,映画界においてアイデアに偏る評価機軸のブランドを確立しており,その不完全さこそが,彼の作品をそうたらしめているからである.本作はシャマランの個人的なインスピレーションに基づいており,独特の設定とシュールな探求が見られるものの,寓意的なテーマの深掘りには限界がある.

 シャマランは,ルイス・ブニュエル(Luis Buñuel)の不条理劇「皆殺しの天使」(1962)に大きな影響を受けた.ブルジョワの邸宅に閉じ込められ,そこから出られなくなる無限ループを描いた作品である.シャマランはこの映画に触発され,本作のビーチリゾートのロゴを「白いヤシの葉」にした.ブニュエルの映画冒頭にも,まさに同じヤシの葉が登場する.リゾートマネージャーは,観光客の多い場所を避けられる秘境のビーチについて話し,シャマラン自身が最もメタなカメオ出演で案内している.入江に閉じ込められた1分は,丸10日分に相当すると思われるので,時間は通常の約15,000倍の速度で進んでいることになる.通常,生まれたばかりの新生児は栄養や水分なしでも2~3日は生き延びることができるという.ただし,老化の異常加速をもたらすビーチでは,わずか「12秒間」の放置に相当するため,生まれてから生存することはほとんど不可能だったであろう.

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原題: OLD

監督: M・ナイト・シャマラン

108分/アメリカ/2021年

© 2021 Universal Studios