一人の青年が直面した生死,孤独,恋愛,創作などへの純粋な苦悩に対して,孤独の詩人リルケが深い共感にみちた助言を送りつづけた書簡集.教養に富む若き女性が長い苛酷な生活に臆することなく,大地を踏みしめて立つ日まで書き送った手紙の数々.その交響楽にも似た美しい人間性への共同作業は,我々にひそかな励ましと力を与えてくれる――. |
ライナー・マリア・リルケ(Rainer Maria Rilke)は,その詩作とともに,数多くの手紙を残したことで知られている.その文通相手は文学者や編集者にとどまらず,様々な背景を持つ人々に向けられていた.本書は,詩人志望の悩み多き青年に宛てた「若き詩人への手紙」,子どもを抱えたシングルマザーに宛てた「若き女性への手紙」の2つの書簡から成り立っており,リルケの誠実で深い共感が溢れている.
詩人を志す青年フランツ・カプス(Franz Xaver Kappus)は,孤独や恋愛,虚無に直面していた.この若き思索者に対し,リルケは他人の評価に一喜一憂することを戒める.リルケは,詩作が内面の必要から生まれるべきだと説き,外部からの評価に左右されない自己の確立を求める.一方,リーザ・ハイゼ(Elisabeth Heise)は,2人の子どもを育てながら働くシングルマザーであった.
リルケは彼女の葛藤に共感し,時に芸術論を交えながら彼女の自立心を育む手助けを試みる.リーザとハイゼは未見の文通者でありながら,リルケの手紙は,愛と死,孤独というテーマに真摯に向き合った詩人の高潔な返答として読むことができる.しかし,カプスはリルケの厚志に応えられず,詩人の夢を諦めて大衆小説の物書きに転じた.
「書かなくても生きて行けるということを感じるならば,もうそれだけで詩人になる資格はない」というリルケの言葉は,詩作に対する冷徹な姿勢を示している.内面的な苦境に立たされるすべての人,さらには文筆に携わる者にとっても貴重な教訓となる.リルケの忠言は,時代を超えて人々に突き刺さるだろう.
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Title: BRIEFE AN EINEN JUNGEN DICHTER, BRIEFE AN EINE JUNGE FRAU
Author: Rainer Maria Rilke
ISBN: 4102175016
© 1953 新潮社