「死刑はやむを得ないが,私としては,君には出来るだけ長く生きてもらいたい」(死刑判決言い渡しの後で).裁判官は無味乾燥な判決文を読み上げるだけ,と思っていたら大間違い.ダジャレあり,ツッコミあり,説教あり.スピーディーに一件でも多く判決を出すことが評価される世界で,六法全書を脇におき,出世も顧みず語り始める裁判官がいる――. |
裁判官の纏う法衣は漆黒.何ものにも染まらない色として,司法と判決の厳密さを象徴している.しかし,それは裁判官が機械的にあらゆる事件を裁定することを意味しない.むしろ,裁判官は判決を言い渡した後,被告へ訓戒を懇々と諭すことがある.その訓戒は時に重く,客観的であり,また時には感情的である.裁判官は,無味乾燥な判決文を読み上げるだけではない.
法の原理を是と非に問う行為は,常に厳格さが要求される.著者は7回の司法試験失敗を経て,司法ライターとして裁判を傍聴した.傍聴を続ける中で,六法全書を脇に置き,「人の道」を肉声で説く裁判官の含蓄ある言葉に注意が向いた.裁判官が示す数々の訓戒は,単なる雑談ではなく,刑事訴訟規則221条に定められた確とした法令行為である.社会通念と法的拘束力を結びつけ,規定する裁判官の人間性が法令行為に垣間見えるところに,面白味を感じることができる.
書籍の綴じ方“ダブルページ”という特性は,本書のような趣旨の書籍で存分に活かされる.裁判官のパーソナリティが訓戒を通じて垣間見える場面こそが,司法制度の硬直したイメージを覆し,人間味を感じさせる部分である.裁判所の冷厳な空気の中で,人間らしい感情や倫理観を持つ裁判官の存在は,法と人間の関係をより深く理解するための重要な要素である.
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原題: 裁判官の爆笑お言葉集
著者: 長嶺超輝
ISBN: 4344980301
© 2007 幻冬舎