アメリカの巨大な自動車会社のダイナミックなメカニズムを,新車「オリオン」の開発をめぐる全活動を通じて,あらゆる角度から詳細に描き,現代企業の全貌を描ききった.幹部の面々,デザイナー,工場長,パーツメイカー,広告代理店,ディーラー,レーサー,映画監督まで登場し,虚々実々の駆引き,野心と欲望に火花を散らす男女をからませ,抜群のストーリー・テリングを駆使した,話題の長編――. |
おびただしい登場人物の群像劇は,“自動車”を接点に繰り広げられる.本書の主役は,紛れもなく自動車という社会的存在であり,物体が支配する世界の規律や秩序を描き出す.アーサー・ヘイリー(Arthur Hailey)の著作タイトルは,常にシンプルで本質的だった.とかくこってりとした邦題をつけがちな翻訳者も多いが,ヘイリーの一連の著作を翻訳した永井淳の賢察により,ヘイリーのスタイルは最大限尊重されている.
1970年代初頭,日本車はデトロイトでは「ガラクタ」扱いされていた.本書で「ラス・ヴェガス以上の大ギャンブルセンター」と称されるデトロイトは,自動車産業の中心地であり,その栄華と衰退が描かれている.特にオイルショック後,日本車は耐久性,価格,機能性,燃費の各面で急速に追い上げ,デトロイトの自動車産業を脅かした.この状況を背景に,本書は巨大組織とその内部の葛藤を描き出している.
ヘイリーの作品は,徹底した取材に基づいており,フィクションとドキュメンタリーを融合させた「ファクション」として知られている.その作品群は,時代の要請を意識した輝きを放つ.本書の執筆当時,誰も日本車の席巻を予測できていなかったであろう.文明の利器である自動車は依然,成長途上にあり,自動車を取り巻く群劇の移ろいも一つ所に留まることはない.
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Title: WHEELS
Author: Arthur Hailey
ISBN: 4102145044
© 1978 新潮社