毎夜1時間の停電の夜に,ロウソクの灯りのもとで隠し事を打ち明けあう若夫婦「停電の夜に」.観光で訪れたインドで,なぜか夫への内緒事をタクシー運転手に打ち明ける妻「病気の通訳」.夫婦,家族など親しい関係の中に存在する亀裂を,みずみずしい感性と端麗な文章で表す9編.ピュリツァー賞など著名な文学賞を総なめにした,インド系新人作家の鮮烈なデビュー短編集――. |
主として,欧米に根付くベンガル系の人々の文化的価値観が扱われた平易な物語の群れ.創作を始めたばかりの頃のジュンパ・ラヒリ(Jhumpa Lahiri)は,移民としての望郷の念が作品の「主題」となっていることを,自覚していなかったという.
午後8時から1時間だけ,停電となった時間を共有する夫妻が相互に打ち明ける“秘密”(「停電の夜に」).インドとパキスタンが争う1971年,ベンガル人家族と親しくなったピルザダは優しい男だった(「ピルザダさんが食事に来たころ」).奇病に悩みながら,平凡な結婚を夢見るビビを従兄夫婦は好ましく思わない(「ビビ・ハルダーの治療」).全9篇.
狭いコミュニティ,近しい間柄の人々にさえ横たわる関係性の寄る辺なさ.ナーバスな機微は,インド系文化圏から遠く離れることからの独特な不安から少しずつ分離し,それぞれの人物の深い部分に浸潤する.シームレスなメッセージ性が,読み手の共感を喚起するであろう.
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Title: INTERPRETER OF MALADIES
Author: Jhumpa Lahiri
ISBN: 4102142118
© 2003 新潮社