かまいたち,火車,姑獲鳥,ぬらりひょん,狂骨‥‥現代の小説や漫画でおなじみの妖怪たち.その姿形をひたすら描いた江戸の絵師がいた.あふれる想像力と類いまれなる画力で,さまざまな妖怪の姿を伝えた鳥山石燕の妖怪画集全点を,コンパクトな文庫一冊に収録――. |
鳥山石燕は代々幕府の御坊主である家系に生まれ,経済的には比較的恵まれていた.狩野周信に学んだ狩野派の画家であり,船月堂零陵堂・玉樹洞・月窓などの号を使い,俳人としても活動した.60代以降の隠居から絵師の活動は活発化し,その題材は森羅万象に潜む「怪力乱神」であった.
『論語』述而には,怪異・勇力・悖乱(はいらん)・鬼神を,理性を超えた存在と扱っているが,石燕は画の詩心にそれらの表現を期した.本書収録の作品は,(1)「画図百鬼夜行/陰・陽・風」.(2)「今昔画図続百鬼/雨・晦・明」.(3)「今昔百鬼拾遺/雲・霧・雨」.(4)「百鬼徒然袋/上・中・下」となっており,日本・中国・天竺の故事来歴による物の怪,また石燕オリジナルの妖怪も描かれている.
たくましい空想力と深い教養に裏付けられた書風は,「詩は人心の物に感じて声を発するところ,画はまた無声の詩とかや」.類い稀なる画技は,日本人の想起する妖怪イメージの「原型」を個性的に創り出した.眺めていて飽きない.74歳で鬼籍に入った石燕は,浅草光明寺に葬られた.その場所は,江戸城本丸から見て正確な「鬼門」に位置していたという.
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原題: 画図百鬼夜行全画集
著者: 鳥山石燕
ISBN: 9784044051013
© 2005 角川書店