若くして莫大な財産を相続した伯爵令嬢の身に降りかかる災いを描く「黒馬の哭く館」,同姓同名かつ瓜二つの男の存在に悩まされる士官,男と賭博場で対決する美しい女性「影を殺した男」,落ち目になり酒に溺れる俳優が異国の地で少女の幻影と対峙する「悪魔の首飾り」の3話で構成されたオムニバス・ホラー作品. |
エドガー・アラン・ポー(Edgar Allan Poe)の怪奇譚三篇を映像化したのは,ロジェ・ヴァディム(Roger Vadim),ルイ・マル(Louis Malle),フェデリコ・フェリーニ(Federico Fellini).伊仏の名匠たちではあるが,原作の幽玄な耽美には遠く及ばない.雰囲気だけ模倣されているのは,マルの「影を殺した男」.サディズムに侵された美男子ウィルソンをアラン・ドロン(Alain Delon)は好演したが,ブリジット・バルドー(Brigitte Bardot)のアクが強すぎる美貌が,ウィルソンの良心と邪心の影を薄くする.
「黒馬の哭く館」では,メッツェンガーシュタイン伯爵家令嬢のジェーン・フォンダ(Jane Fonda)を乗せた漆黒の馬は,数百年間に及ぶ敵対関係にあったベリルフィッツィング家との怨嗟と愛憎の権化でなければならない.動物に怪異のオーラを求めるのは酷だが,このエピソードにはそれが求められて然るべき.タペストリーの黒馬の燃える瞳は不吉な様相をよく出しているが,フォンダの演技とその衣装が軽すぎる.
本作で最も人気の高い「悪魔の首飾り」は,凋落の俳優トビー・ダミット/テレンス・スタンプ(Terence Stamp)の怪演と,彼を死へと引きずり込む悪魔(少女の姿)の演技的パフォーマンスがすべてといってよい.無神論を嘯くダミットが,酩酊状態で破滅に向け駆るのは,1964年型フェラーリ「330 LMB Fantuzzi」.この作品だけ,20世紀イタリアへ舞台を変えている.原作との乖離をあえて既知のものとした大胆な翻案が,奏功している.
初公開から40年の時を経て,美麗デジタル・リマスターで甦ったとされる本作は,傑作ホラー・オムニバスの再燃(再来ではない)を予期させるものだった.だが圧倒的な退廃と審美に満ちたポーの原作を「標榜」する限り,仮借ない評価に還らざるを得ない.すでにハリー・クラーク(Harry Clarke)挿画という強烈なエフェクトを吟味してきた立場なら,いかなる映像作家もポーを描き切れないことを承知している.ただし,本作の名誉のために言い添えておく.原作を意識しない場合,怪奇オムニバスとしての水準は高い.
恐怖と宿命はいつの世にもある それゆえ 私が語る物語に日付は必要ない
++++++++++++++++++++++++++++++
原題: TRE PASSI NEL DELIRIO
監督: ロジェ・ヴァディム,ルイ・マル,フェデリコ・フェリーニ
122分/フランス=イタリア/1967年
© 1967-TF1 INTERNATIONAL - PRODUZIONI EUROPEE ASSOCIATES S.A.S.