村川は,ヤクザ稼業に嫌気が差している北嶋組幹部.そんな男が,親分の依頼で中松組の助っ人として,沖縄に飛んだ.村川を待っていたのは,敵対する阿南組の襲撃――連れの子分が2人殺られた.「ドンパチでやばいとは聞いていたが,話が違い過ぎる……」.また2人,凶弾に倒れた.抜けるような青い空と海,照り付ける太陽の下で殺戮は続く.「ハメられた! 」逃げ場を失った村川は,ただひたすら〈死〉に向かって突き進むのだった…. |
義侠心とアンニュイが微妙に混在するバイオレンスこそ,猜疑的な表現者の反倫理,反体制の骨頂.「ヤクザやめたくなったな.なんかもう疲れたよ」.アウトローの中年男にこういわしめ,それを監督自らが演じる.北野作品に魅了され,ヨーロッパで熱狂的な“キタニスト”を名乗る映画ファンが現われたのは,間違いなく本作の発表以降だった.
生-死(花-火)の直截的な対比作劇「HANA-BI」(1997),シニカルな笑いと暴力の後に訪れる静謐「BROTHER」(2000).それらのメロドラマとエンタメの結節点を,本作は確かに担う狂気の作風である.1993年カンヌ映画祭に出品されると話題となり,北野は「東洋のゴダール」と呼ばれた時期がある.本作の仮タイトルは「沖縄ピエロ」というもので,無軌道な逃避行,時系列を無視した記号の羅列,空疎な会話,空と海の融合する紺碧の美しさ.
多義的な解釈を認めるアヴァンギャルドと破滅衝動(タナトス)が兆す.「気狂いピエロ」(1965)の翻案に見えなくもない.「あんまり死ぬのを怖がってると,死にたくなっちゃうんだよ」.オマージュがあるにせよ,以後コメディ映画や青春映画の隘路を経て,4年後にエポック・メイキングとなる「HANA-BI」が満を持して登場する.本作は北野映画の初期集約の堂々たる代表格である.
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原題: ソナチネ
監督: 北野武
93分/日本/1993年
© 1993 バンダイビジュアル,松竹