■「理由なき反抗」ニコラス・レイ

理由なき反抗 [Blu-ray]

 17歳の少年ジムはこの町に引っ越してきたばかり.なのに酔っ払って警官に捕まってしまう.その晩に起こった集団暴行事件の容疑者として警察に連行された彼は,そこで美しいジュディと,まだ子供のようなプレイトーと知り合う.間もなく二人は帰宅を許され,ジムも温情ある少年保護係のレイ主任の取りはらいで帰ることができたが,この三人の出会いは,やがて彼らの持つやり場のない苛立ちを露呈する事件へと結びついてゆく….

 作における最も象徴的なシーンの一つが,ジェームズ・ディーン(James Byron Dean)が主演したチキン・レースである.ディーンが最も恐れたのは,「臆病者[チキン]」と呼ばれることであった.この恐怖心は,彼の赤いジャケットとジーンズという装いと共に,繊細な虚勢を張る青年像を形作り,青春時代のアイコンとなった.このアイコンは,後年の映画作品にも影響を与え,たとえば「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(1985)の主人公が,挑発に簡単に乗ってしまうなど,多くのキャラクター造形に影響を及ぼしている.製作にあたり,ワーナーはB級映画としての企画を立て,主演にはマーロン・ブランド(Marlon Brando)の起用を考えていたが,ブランドはこれを拒否した.その後,アクターズ・スタジオでブランドを尊敬していた後輩であるディーンが主演を務めることとなった.

 ディーンはブランドに憧れを抱いており,影響を強く受けていたが,二人は非常に異なる演技スタイルを持っていた.ブランドはしばしば即興を重視するのに対し,ディーンはより感情的な深みを追求する傾向があった.ディーンの演技に関する裏話として,撮影現場での彼の振る舞いが挙げられる.ディーンはしばしば役に没入しすぎるあまり,撮影中に他のキャストやスタッフと緊張した関係になることがあった.たとえば,彼はナイフを使った決闘シーンで本物のナイフを使用することを提案し,その結果,撮影中に手を切る事故が発生した.この事故が原因で,撮影が一時中断されたが,ディーンは痛みをこらえながらもシーンを完成させた.ディーンが演じたキャラクターは,物事の分別がつき始める年齢に達しながらも,責任を回避しようとする姿勢が際立っている.アルコール,ドラッグ,暴力に溺れる彼らは,既存の社会体制に従うことを恐れる駄々っ子に過ぎない.

 若者のケーススタディの代表例として,ディーンは見事に成功を収めたが,その演技からは,単なる表面的な反抗ではなく,深い「無常観」が感じ取れる.彼は本作の撮影中,愛車であるポルシェ・550スパイダーで頻繁に現場に通っていた.この車は,後に「リトル・バスタード」と呼ばれるようになり,ディーンが不慮の事故で命を落とす原因となった車である.興味深いのは,この車が「呪われた車」として知られるようになった点だ.ディーンの事故後,この車に関わった人々が相次いで不幸に見舞われたという話が広まり,都市伝説となった.さらに,共演したナタリー・ウッド(Natalie Wood)に関しても興味深いエピソードが多い.彼女はディーンと一時的に恋愛関係にあったが,私生活は波乱に満ちていた.ウッドは,当時のハリウッドで有名な人物たちと次々に関係を持ち,監督ニコラス・レイ(Nicholas Ray)やマーロン・ブランドデニス・ホッパー(Dennis Hopper)とも浮名を流していた.

 ホッパーとは一度,シャンパン風呂で過ごした後,酔いつぶれて救急車で搬送されたという逸話もある.ウッドの私生活は,快楽に耽るというよりも,むしろ苦しみや孤独に満ちたものであった.映画自体は,ディーンの死後にニューヨークで公開され,主演俳優が死亡した映画が不成功に終わるというジンクスを打ち破るヒットとなった.この映画は,悲痛な慟哭を残すジムとジェームズ・ディーンのイメージが重なる作品として,長く記憶されることとなった.彼の死は映画の宣伝に大きく貢献し,観客がスクリーンに映る彼の姿を最後に見られるという理由で,劇場は連日満員となった.本作が象徴するのは,青春の不安定さと反抗心,そして大人社会への不適応であり,ディーンがその象徴として永遠に記憶される.映画史においても,本作は伝説的な俳優の遺作として,その文化的価値が高く評価され続けている.

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原題: REBEL WITHOUT A CAUSE

監督: ニコラス・レイ

105分/アメリカ/1955年

© 1955 Warner Bros. Pictures