21年間にわたるアメリカ滞在中に行った講演の中から15篇,また英国での講演から3篇を収録.「医学はサイエンスに支えられたアートである」と定義したオスラー博士の医の真髄を語る講演集.84年刊に次ぐ新訂増補版――. |
医学関係者を中心に,「オスレリアン」と呼ばれる人々がいる.彼らは,アメリカ医学の開拓者ウィリアム・オスラー(William Osler)の思想と哲学に共鳴し,実践に努める.オスラーは,医学生,看護婦および実地医家に向けて行なった18回の講演を1904年にとりまとめて出版した.医師としての技術蓄積,それには不断の努力が不可欠であることを多方面から述べるとともに,病める人に全人的な癒しを与えるには,教養が重要であることを趣旨とする.
本書は,オスラーの講演録である.エッセンスとして読み取れるのは,エピクロス学派の主張した知恵の理想〈アタラクシア〉,すなわち,平静不動の心境が安寧の必須条件とする思想であり,科学と人文学の修養が意義として医学者には求められる.「医学に携わる者は,毎晩寝る前の30分間,教養書を読みなさい」.聖路加国際病院には,オスラーの勧めを忠実に実行する敬虔なオスレリアンにより,<オスラー・ライブラリー>が開設されている.
人文教育の習得はわずかな時間と費用があればできる.日々の生活が決められた仕事でどんなに詰まっていようとも,皆さん方の一つあるいは十の能力を最大限に活かすためには,医学の実地教育だけで満足してはならない.学者に相応しい教育とは言わないまでも,少なくとも紳士たるに相応しい教育を受けるよう努力していただきたい.就寝前の三十分間本を読み,朝目覚めたときベッドサイドのテーブルの上に本が広げたままであってほしいと思う.一年のうちに読書量がどれほどになるかを知って驚かれることであろう
ライブラリーとして,オスラー自身がリストアップした古今の教養書は10点.【1】旧・新約聖書,【2】シェイクスピア,【3】モンテーニュ,【4】プルターク『英雄伝』,【5】マルクス・アウレリウス,【6】エピクトテス,【7】『医師の信仰』,【8】『ドン・キホーテ』,【9】エマーソン,【10】オリバー・ウェンデル・ホームズ『朝の食卓』シリーズ.
清廉潔白なオスラーとその賛同者を礼讃するだけでは,面白くはない.毒に欠けるというわけで,日本医師会を日弁連に匹敵する職能/頭脳集団をもつ団体へと育て上げ,「入院してみて,はじめて患者というのはかわいそうな存在だということがわかったよ」と吐いた「日本医師会のドン」「厚相殺し」こと武見太郎の評伝(三輪和雄 『猛医 武見太郎』徳間書店,1995年)を併読すべき.
++++++++++++++++++++++++++++++
Title: AEQUANIMITAS
Author: William Osler
ISBN: 426013552X
© 1983 医学書院