81年のバンド結成以来,全世界でアルバム売上9000万枚以上を誇るメタリカが,最新アルバムを完成させるまでを追ったロックドキュメンタリー.メンバー間の確執に苦悩しながらも再出発を果たす彼らの姿を追う…. |
スラッシュ・メタル四天王の一角とも,“メタル・オブ・ゴッド”とも称される怪物バンドのアルバム作成風景をフィルムに収めようとするドキュメンタリーだが,撮影中,スタッフは何度も「(カメラを)止めなくていいのか」と確認を取るシーンがマスターテープに収録されている.アルバムの陳腐なメイキングに留まるわけもなく,火のような個性とエナジーを発するメンバーの衝突を,赤裸々にカメラは記録している.ストイックなまでに音楽にかける情熱は,メンバー間の怒号と憎悪,エゴイズムにかき消されているように見えながら,最後にはそこに回帰していく.映像作家ジョー・バーリンジャー(Joe Berlinger)とブルース・シノフスキー(Bruce Sinofsky)は,へヴィメタ界のカリスマ,メタリカに焦点をあてたドキュメンタリーを製作しようと考えた.以前のドキュメンタリー・フィルムに快く楽曲を提供してくれたメタリカに,興味を抱き続けてきたからだ.
撮影が始まった2001年,メタリカは結成20年の節目に,ニューアルバムの完成に向け意見を戦わせていた.世界中が注目するアルバムの完成度という重圧,メンバー間の信頼感の欠如,ベーシストのジェイソン・ニューステッド(Jason Newsted)の脱退,さらには目指す音楽性の相違から,ラーズ・ウルリッヒ(Lars Ulrich)と激しく対立してきたジェイムズ・ヘットフィールド(James Hetfield)が,アルコール依存症で長期休養.内紛の絶えないメタリカは,空中分解寸前だった.強面の彼らには,ひたすらに音楽の極みを手にしようとする少年のような純粋さとストイックさ,自己の理想のためには,他のメンバーの思惑など度外視する横暴さが,めまぐるしく表出しては衝突し合う.よくこんな連中が20年も協同作業を継続できたものだと唖然とするほかないが,彼らの精神的支柱となっている専属のセラピストの存在が胡散臭くも面白い.
激しい言葉で怒鳴り合い,ステージ上では反倫理的なメッセージやパフォーマンスを見せるヘットフィールドが,「教えてくれ,俺たちに必要なものは何なんだ?」と,精神分析派と思しきセラピストに教えを乞うのである.機嫌が悪いと怒鳴り散らしてレコーディングを中断,かと思えば,愚直なまでに単調なボイストレーニングは欠かさない.そんな猛者の集合が,ハードコア・パンクなど他ジャンルの音楽にまで影響力を誇る“イズム”の源泉の場である――2000年4月,メタリカは音楽ファイルの交換システムを取るナップスターおよび大学3校を相手取り,著作権侵害,デジタル音楽ソフトの違法使用及び不正組織防止条例の違反で訴えを起こした.これを受け,ナップスターは,メタリカの楽曲を交換したすべてのユーザ(約31万7,000人)をメンバーから削除した.この時削除されたユーザーは,ナップスターに再度登録することが不可能であったため,ユーザーたちは激怒した.バンド内の火種のみならず,社会的にもメタリカは批判を向けられ,音楽活動そのものが末期症状を呈していると非難されるありさまだった.
メタリカの「気風」に馴染めず,奇行から過去にメタリカから解雇を言い渡されたメガデスのデイヴ・ムステイン(Dave Scott Mustaine)が,「メタリカでの経験は無駄ではなかった」と懐古するシーンが出てくる.ムステインが初期メタリカの音楽に与えた影響は大きく,感慨深い.しかし,ドラッグに毒され傍若無人であったムステインと派手に殴り合い,追放したジェームスは,彼のコメントをどう受け止めるだろうか.映画は,抜けたベーシストの穴を埋めるオーディションで, ツー・フィンガー奏法とディストーションの使い手ロバート・トゥルヒーオ(Robert Trujillo)を選び迎え入れ,2003年にアルバム「セイント・アンガー」を完成させた新生メタリカを披露する.骨のあるメタリカ・サウンドは,世界の期待に違わず,ファンを熱狂させた.刑務所慰問のステージ上で,ヘットフィールドが「音楽に出会わなければ,自分もここに来るかとっくに死んでいた」と,不器用に入所者へメッセージを発した場面が,ひときわ印象深い.
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原題: METALLICA - SOME KIND OF MONSTER
監督: ジョー・バーリンジャー,ブルース・シノフスキー
141分/アメリカ/2004年
© 2004 We're Only In It For The Music.