Combining a theoretical treatment of the architectural language with a record of the Post-Modern movement at six different stages in its history, this book defines Post-Modernism in architecture. The buildings of Robert Venturi and Michael Graves, among others, are featured――. |
ポスト・モダニズム建築は,1980年代以降の思想的潮流とともに台頭し,近代建築への批判を契機に「折衷主義」「表現主義」を取り入れた.脱近代や反近代というイデオロギーと融合し,バブル経済やヤッピー文化の繁栄に伴い急速に拡大した.特に,装飾や過去の建築様式の引用が正当化され,建築における意味や物語の重視が強調されるようになった.しかし,その過程で建築理論は複雑化し,一部の作品は景観を乱すとの批判も受けることがあった.チャールズ・ジェンクス(Charles Alexander Jencks)は,ポスト・モダニズムを「ハイブリッド」な様式と捉え,その本質をラディカルな折衷主義とし,「二重のコード化」(多層的な解釈の可能性)という概念を本書で提唱している.1989年,ドミニク・ペロー(Dominique Perrault)がパリ国立図書館のコンペで優勝した際,ミニマリストな設計はポスト・モダニズム建築の潮流に一石を投じ,その終焉を予感させた.ペローの設計は,無機質で冷たいとの批判を受けながらも,無駄な装飾を排除し,建築空間の本質を見直す姿勢を示していた.
1990年代には,モダニズムの再評価が進み,素材の質感を活かしたシンプルなデザインが増える一方で,脱構築主義建築のように複雑で過剰な表現も見られるようになった.ポスト・モダニズム建築は一貫性に欠ける潮流として批判されることもあったが,ラディカルな折衷主義や多義的な解釈がその本質を成していた.フィリップ・ジョンソン(Philip Johnson)は,かつてモダニズムの代表的な建築家であったが,1980年代にポスト・モダニズムに転向した.その象徴的な作品であるニューヨークのAT&Tビル(現ソニービル,1984年)では,超高層ビルの上部に古典ギリシア建築のペディメント(三角破風)を装飾として使用し,モダニズムの「装飾の否定」に対する反発を明確に示した.ジョンソンの転向は時代の変化に敏感であったことを示す一方で,「モダニズムに疲れ,刺激を求めてポスト・モダニズムに走った」と一部で揶揄されることもあった.ジョンソン自身も後に「建築は常に進化している.変化しなければ停滞する」と述べているように,その姿勢は柔軟であった.
ロバート・ヴェンチューリ(Robert Charles Venturi Jr.)は,ポスト・モダニズムの理論的基盤を築いた一人であり,彼の著書『ラスベガス』(1972年)は建築界に大きな影響を与えた.ヴェンチューリはラスベガスの商業的建築に美学的価値を見出し,俗悪な建築を肯定的に捉えた.当時はその評価に対して批判的な反応もあったが,後にラスベガスの派手なネオンやテーマ性の強い建物が建築界のみならず,大衆文化の象徴として評価されるようになった.ヴェンチューリは「ラスベガスに惹かれた理由は,その建築がエリートではなく大衆のために作られていたからだ」と述べ,エリート主義的な建築観に対する批判的立場を明確にした.ジェンクスの理論は,ポスト・モダニズム建築が単なる装飾の復活にとどまらず,複数の解釈を可能にする多様な文脈の重層化を目指していることを示している.これにより,ポスト・モダニズムはモダニズム批判を超え,より複雑で多義的な建築表現を追求する新しい潮流となった.ポスト・モダニズム建築の特徴として挙げられるのは,モダニズムによって否定されてきた装飾性や象徴性の復活である.
たとえば,ジョンソンがニューヨークのAT&Tビルで行った古典建築の要素の使用や,ヴェンチューリがラスベガスの商業建築を評価したことがその具体例である.また,日本の建築家である隈研吾も,ポスト・モダニズムの影響を受けつつ,1990年代後半から「負ける建築」「消える建築」という独自の視点を提唱した.隈は過剰な表現や豪華さを避け,周囲の環境と調和する建築を目指しており,これはポスト・モダニズムに対する批判的な立場を示している.彼の思想は日本の伝統的な美意識「侘び寂び」に通じ,モダニズムやポスト・モダニズムの両方に対する新たなアプローチとして評価されている.こうして,ポスト・モダニズム建築はモダニズムの枠を超えた多層的な解釈と折衷主義の美学を打ち立てたものの,その結果として建築理論は複雑化し,景観や機能性に関する批判も同時に生み出した点で,その評価は今なお分かれている.
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Title: LANGUAGE OF POST MODERN ARCHITECTURE
Author: Charles Jencks
ISBN: 0856709344
© 1988 Academy Editions Ltd (a division of John Wiley & Sons Ltd.)