Constructing Boundaries examines the competition, interaction, and impact among Jewish and Arab workers in the labor market of Mandatory Palestine. It is both a labor market study, based on the Split Labor Market Theory, and a case study of the labor market of Haifa, the center of economic development in Mandatory Palestine――. |
イギリス委任統治期パレスチナにおけるユダヤ人とアラブ人労働者の競争や協力関係を解明した労作である.スプリット労働市場理論に基づいており,当時のパレスチナで経済発展の中心地であったハイファをケーススタディとして用いている.著者は,ユダヤ人とアラブ人労働者の間に横たわる深刻な国家的対立が,労働者間の関係や労働運動にどのような影響を与えたかを丁寧に分析している.
ユダヤ人労働者がアラブ人労働者との間に境界を築こうとする動きを描くだけでなく,階級闘争を通じて両者が協力する事例も取り上げているのが本書の特徴である.ハイファは当時「赤いハイファ」と呼ばれ,急速に成長する産業都市として労働者階級の活動が活発化していた.1930年代のハイファは,パレスチナ全土でも特に労働運動が盛んな都市であり,ユダヤ人とアラブ人の労働者が同じ工場で働くことが多かった.しかし,ユダヤ人労働組合であるヒスタドルート(総労働組合)は,アラブ人労働者との競争を避けるために排他的な政策を進め,彼らに職場での優位性を築こうとした.
ユダヤ人労働者がアラブ人労働者の賃金を抑え,労働市場での独占を目指す試みはスプリット労働市場理論の典型的な例であった.しかし,著者が注目するのは,このような排他的な動きに対抗する形で,労働者間に時折見られた連帯の試みである.1936年のパレスチナ・アラブ反乱の時期には,両民族の労働者が一時的に協力し合い,共通の敵である植民地政府や資本家階級に対して抗議運動を行ったことが記録されている.この連帯は長続きしなかったが,著者は労働者が単なる民族的対立を超え,階級闘争の名の下に協力しようとした事実に注目している.
当時のハイファでは,国際的な共産主義運動の影響もあり,労働者たちが社会主義思想に触れる機会が増えていた.ソビエト連邦の影響を受けた労働者たちは,民族的な壁を越えて階級闘争を重視する傾向が強かった.これに対し,ヒスタドルートはユダヤ人労働者の利益を優先し,国際主義よりもナショナリズムに基づいた政策を進めていたことが,本書で描かれている対立の背景にある.さらに,パレスチナ内の労働運動が国際的な共産主義運動とも微妙な関係にあったことを示唆し,冷戦時代の労働運動とパレスチナ問題の複雑な絡み合いを浮かび上がらせている.
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Title: CONSTRUCTING BOUNDARIES - JEWISH AND ARAB WORKERS IN MANDATORY PALESTINE
Author: Deborah Bernstein
ISBN: 0791445402
© 2000 State Univ of New York Pr