ヨーロッパ文学から離れて,土着派のマーク・トウェインなどと併せて,アメリカ文学として独立した画期的作品.後走者のヘミングウエイ,フォークナーなどに多大な影響を与えた.オハイオ州ワインズバーグ・オハイオという町を設定して,そこに住む人々の生活,精神の内面を描き,現代人の孤独や不安といった現代文学の主要テーマをアメリカ的背景のもとにとりこんだ.全体は22篇の短篇で構成――. |
シカゴの広告業界で働きながら,作家への道を模索していたシャーウッド・アンダソン(Sherwood Anderson)は,本作を通じて,作家としての確固たる地位を手に入れた.架空の町ワインズバーグは,アメリカ中西部オハイオ州の典型的な田舎町をベースにしつつも,独自の視点で再構築された世界である.全体は22の短編から成り,それぞれが町の住人たちの「日常」「普通」の側面を,写実的な技法を用いて描いている.
群像劇は,ジェイムズ・ジョイス(James Augustine Aloysius Joyce)の自然主義的リアリズムを思わせる.同時に,アンダソンが描き出す架空の地は,ハワード・P・ラヴクラフト(Howard Phillips Lovecraft)のニューイングランドの都市風景を彷彿とさせる.物語の中核を担う若い新聞記者ウィラードが,各エピソードを通じて登場人物たちの心情や葛藤を見つめ,その内面的な孤独やエゴが鮮明に浮かび上がる仕組みだ.ウィラードは一種の狂言回しとして,読者をワインズバーグの住民の世界に誘い,彼らが抱える葛藤や閉塞感を象徴的に表現する.
断片的なエピソードが集約されると,グロテスクで複雑な人間模様が,全体のコスモス(宇宙観)として浮かび上がる.アンダソンの技法は,のちに「ワインズバーグ方式」と呼ばれ,同様のスタイルはウィリアム・フォークナー(William Faulkner)やガブリエル・ガルシア=マルケス(Gabriel García Márquez)らによっても成功裏に応用される.彼らの作品に見られるハイブリッドな空間――現実と幻想が交錯するような世界観――は,アンダソンの形式が開拓した道を基盤にしているのである.
アンダソンの作品が評価される理由の一つは,「日常」を描きながら,同時に普遍的な人間性を探求する深さにある.ワインズバーグの住民たちは皆,表面上は平凡に見えるが,その内面には孤独,不安,欲望といった普遍的なテーマが渦巻いており,彼らの人生はその複雑さゆえに読者に強い共感を呼び起こす.アンダソンの筆致は,その静かな観察眼によって,登場人物たちの隠された心の奥底に光を当てている.
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Title: WINESBURG OHIO
Author: Sherwood Anderson
ISBN: 4061975730
© 1997 講談社