▼"Chip War" Chris Miller

Chip War: The Fight for the World's Most Critical Technology

 Power in the modern world - military, economic, geopolitical - is built on a foundation of computer chips. America has maintained its lead as a superpower because it has dominated advances in computer chips and all the technology that chips have enabled. (Virtually everything runs on chips: cars, phones, the stock market, even the electric grid.) Now that edge is in danger of slipping, undermined by the naïve assumption that globalising the chip industry and letting players in Taiwan, Korea and Europe take over manufacturing serves America's interests――.

 代における「パワー」の核心が,軍事,経済,地政学においてコンピュータチップに依存しているという現実を鮮明に描き出している.アメリカは,半導体技術の進展を主導することで長らく超大国としての地位を維持してきたが,その優位性は現在危機に瀕している.その背景には,半導体産業をグローバル化し,台湾や韓国,ヨーロッパなどが製造を担うことがアメリカの利益にかなうという,楽観的な政策判断があった.しかし,これが将来の安全保障に深刻な影響を及ぼす可能性が指摘されている.アメリカは,1960年代から70年代にかけて,半導体技術の発展を軍事戦略の中核に据え,精密誘導兵器や衛星通信システムなどにその技術を組み込んだ.これにより,ソビエト連邦の軍事技術は一気に時代遅れとなり,冷戦の軍拡競争においてアメリカが優位に立つことができた.

 1980年代のレーガン政権時代に進められた「スター・ウォーズ計画」(戦略防衛構想)において,半導体技術の高速化が,ソ連に対する抑止力として機能したとされる.当時のソ連アメリカのチップ技術に追随しようと試みたものの,その技術的遅れは致命的であった.著者はこの点について,冷戦後期のソ連の兵器システムが,どれほどアメリカ製チップによって無力化されていたかを語っている.現在,中国は半導体技術においてアメリカに追いつくため,莫大な資金を投入し「チップ版マンハッタン計画」を進行中である.このプロジェクトは,アメリカが第二次世界大戦中に原爆開発に成功したマンハッタン計画になぞらえて名付けられたもので,いかに重要な国家プロジェクトであるかが分かる.中国が半導体の輸入に費やす資金は石油よりも多い.

 中国は,半導体製造装置や技術において外国依存を脱却するため,国内における製造能力の向上を目指しているが,ここでも技術的な課題が山積している.現在世界の半導体供給の約37%が台湾で製造されている.台湾は,TSMCが世界最大の半導体製造企業として位置付けられており,その技術力は他国を大きく引き離している.しかし,台湾は中国本土からのミサイル攻撃圏内にあり,地政学的リスクが常に存在している.この状況は,西側諸国にとって重大な懸念事項であり,特に台湾海峡有事が発生すれば,世界中の産業に壊滅的な影響を与える可能性がある.台湾のTSMCAppleの最新のiPhoneに搭載されるAシリーズチップを独占的に製造している事実は,台湾の半導体産業が世界経済に与える影響の大きさを象徴している.

 中国は,自国のチップ製造能力を強化しようとしているが,現時点では依然として外国の技術に依存している.一方,アメリカは,中国が自国の技術力でアメリカに追いつくことを警戒し,先端技術の輸出規制を強化するなどの対策を講じている.半導体産業が持つグローバルな性格ゆえに,一国だけで完全な技術的自立を果たすことは極めて困難である.アメリカのハイテク産業は現在もシリコンバレーを中心に発展しているものの,その原点は1950年代の冷戦期,軍需産業の需要に応える形で誕生した.シリコンバレーという名称自体も,半導体(シリコンチップ)の発展が地域経済を支えてきたことに由来している.結局のところ,半導体産業の制御は単なる技術や産業の問題にとどまらず,国際政治における覇権争いそのものである.技術の支配権をどの国が握るかが,軍事的,経済的な勢力図を大きく塗り替える可能性が高いだろう.

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Title: CHIP WAR - THE FIGHT FOR THE WORLD'S MOST CRITICAL TECHNOLOGY

Author: Chris Miller

ISBN: 1398504122

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