| Utilising Lon Fuller’s conception of legality, this book argues that current legal provisions often used to control online abuse aided by social media do not conform to the basic principles of legality in the criminal law, in turn, threatening freedom of expression――． |
オンライン上での不適切な行為，特にソーシャルメディアを通じて助長されるオンライン加害の規制は，世界各国の政府にとって緊急課題となっている．英国のリアリティ番組に出演していたキャロライン・フラック（Caroline Louise Flack）が，SNS上での中傷行為によって精神的に追い詰められ，自ら命を絶った事件は，その深刻さを世間に知らしめた．このような悲劇的な事件を契機に「このような事態を防ぐ法律が必要だ」という声が強まった．しかし，イングランドおよびウェールズにはすでに，オンラインでの嫌がらせや脅迫行為を取り締まるための法律が複数存在している．それにもかかわらず，なぜ現行法が技術進展に追いつかず，オンライン加害の抑止に失敗しているのか．本書は，この根本的な問いをロン・フラー（Lon Lovius Fuller）「合法性の概念」を用いて鋭く分析している．
ソーシャルメディアを利用したオンライン加害を制御するために現在の法律が，刑事法における基本的な合法性の原則に適合していないことを論じている．これにより，法的な統制が表現の自由を侵害する危険性があると主張されている．フラーは「合法性の八つの原則」を提唱し，法が「明確で，一般的かつ予測可能」でなければならないと論じた．法律は透明性があり，その適用が一貫していることが求められる．しかし，ソーシャルメディアを通じて発生するオンライン加害を取り締まる法律は，技術の急速な発展に追随できておらず，フラーの合法性の基準に照らしても不十分であると本書は指摘している．例えば，ネット上での脅迫やサイバーハラスメントは，多くの場合，断片的かつ非連続的な形で行われるため，現行法で規定されている「害の証明」を立証するのが困難である．この結果，加害者は法の曖昧さを利用して，処罰を免れることが多い．
本書では，刑事法が直面する3つの主要な問題領域に焦点を当てている．差別的な言論，サイバーハラスメントおよびサイバーストーキング，オンラインでの暴言や脅迫メッセージの送信が取り上げられている．これらの問題は，技術の進展に伴い複雑化しており，従来の法的枠組みでは対応しきれない部分があるとされる．本書は，英国の法制度を中心に分析しているが，フランス，ドイツ，インドなど，他国の取り組みも考察されている．注目されるのが，ドイツの「ネットワーク執行法（NetzDG）」である．この法律は，ソーシャルメディア企業に対して，ヘイトスピーチやフェイクニュースを迅速に削除する義務を課しており，違反すれば巨額の罰金が科される．NetzDGは，欧州連合（EU）の中でも最も厳しい規制の一つとして知られており，他国の法制度に大きな影響を与えた．フランスでは「アヴァイア法」が2020年に制定され，サイバー暴力に対する法的枠組みが強化されたが，同時に表現の自由の侵害に関する懸念も生じている．
インドでは，ソーシャルメディアを利用したデマ拡散や暴力扇動が深刻な社会問題となっており，政府はそれに対処するためにプラットフォームに対する強力な規制を導入している．これらの比較法的な分析を通じて，本書は，単なる規制強化が万能ではなく，法が技術の進展にどのように適応していくべきかという根本的な問いを投げかけている．英国で制定された「オンライン安全法2023年」は，ソーシャルメディアプラットフォームに対して，ユーザーの安全を確保するための義務を課しており，違反した場合には厳しい罰則が科されることが特徴だ．しかし，この法律は表現の自由とのバランスを巡って激しい議論を呼んでおり，過度な規制が創造的表現や政治的討論を萎縮させる可能性があるという懸念が広がっている．また，プラットフォーム側がこの法律にどの程度適切に対応できるかも未知数であるため，今後の運用次第でその効果が大きく左右されると考えられるだろう．
++++++++++++++++++++++++++++++
Title: SOCIAL MEDIA, CRIMINAL LAW AND LEGALITY
Author: Laura Higson-Bliss
ISBN: 1032301554
© 2024 Routledge
