This book offers the first comprehensive study of 'sites of memory' in France connected to the history of French imperialism and colonialism, and the ways that the French have remembered or forgotten their colonial past――. |
フランスにおける「記憶の場」(lieux de mémoire)を通して,フランス帝国主義と植民地主義の歴史に関連する記憶のあり方を初めて包括的に研究したものである.モニュメントや記念碑,博物館のコレクションなど,フランスの海外植民地帝国に結びついた「記憶の場」を取り上げ,フランス当局が帝国主義の拡大期に,いかにパリや地方都市の風景にこれらの植民地的「使命」の痕跡を刻み込んだかを分析している.本書は,これらの「記憶の場」がポストコロニアル期にどのような運命をたどったか,その変遷がフランスにおける植民地時代の記憶と忘却について何を示しているのかを探る.フランス当局が植民地支配を正当化するために意図的に行った歴史的な記憶操作のプロセス――たとえば,1889年に開かれたパリ万博では,フランスの植民地支配を称賛するために「植民地館」が設けられ,現地の人々が展示物として配置されるという演出がなされた.
これは,フランスが「文明化の使命」を遂行しているというイメージを国内外に強調するための典型的な手段であり,帝国主義のイデオロギーがどのように視覚化され,フランス国民に浸透していったかを物語っている.しかし,ポストコロニアル期に入ると,これらの「記憶の場」は徐々に歴史の片隅に追いやられ,国家の記憶から消え去るかのように扱われた.この変化は,フランスが植民地主義の過去にどのように向き合ってきたかを象徴している.フランス国内には,植民地支配の負の遺産を忘却しようとする動きが強く,たとえば1960年代に植民地解放戦争が終息して以降,多くの植民地関連の記念碑や建物が破壊されたり,無視されたりしてきた.この忘却の背後には,フランスが帝国主義の負の側面から目を逸らそうとする国家的な自己防衛の意図が垣間見える.事例としては,1990年代にパリのリュクサンブール公園内に建てられた「奴隷制廃止記念碑」がある.
この記念碑は,長年無視され続けたフランスの奴隷制の歴史に光を当てるものであったが,設置当時はほとんど注目されなかった.それが,21世紀に入り,フランス国内で植民地支配と人種差別の歴史が再評価される中で再び脚光を浴び,フランス社会における植民地主義の再考を促す象徴的な場所となっている.こうした事例は,かつて栄光を象徴した記念碑や博物館が,時代の変化とともに新たな意味を持つようになる過程を示している.さらに本書は,これらの「記憶の場」が現代においていかに再評価され,また時には論争の的となっているかについても論じている.2020年に起こったジョージ・フロイド事件を契機に,フランス国内でも植民地支配の歴史に関連する記念碑や銅像が攻撃される事態が発生した.
植民地主義の英雄とされてきた人物の銅像が次々と撤去される動きは,フランスにおける過去の植民地支配に対する集団的な記憶の再構築を促し,帝国主義の負の側面を直視する契機となっている.本書が取り上げる「記憶の場」は,フランス社会における階級や地域によっても異なる反応を引き起こしている点が興味深い.パリなどの都市部では,植民地支配に対する批判的な視点が強く,記念碑や博物館に対する再評価が進んでいるのに対し,地方都市では依然として帝国主義的な遺構が尊重され続けている場合がある.こうした現象は,フランスの多層的な社会構造と,植民地主義の歴史に対する評価が地域によってどれほど異なるかを示しており,帝国主義が単に過去の問題ではなく,現代フランス社会に深く根付いたテーマであることを浮き彫りにしているのだ.
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Title: VESTIGES OF COLONIAL EMPIRE IN FRANCE
Author: Robert Aldrich
ISBN: 1349516791
© 2005 Palgrave Macmillan