▼"Sephardic and Mizrahi Jewry" Zion Zohar [ed.]

Sephardic and Mizrahi Jewry: From the Golden Age of Spain to Modern Times

 Sephardic Jews trace their origins to Spain and Portugal. They enjoyed a renaissance in these lands until their expulsion from Spain in 1492, when they settled in the countries along the Mediterranean, throughout the Ottoman Empire, in the Balkans, and in the lands of North Africa, Italy, Egypt, Palestine, and Syria, mixing with the Mizrahi, or Oriental, Jews already in these locations――.

 ペインとポルトガルを起源とするセファルディ系ユダヤ人の歴史は,文化的・宗教的な繁栄と苦難に彩られている.15世紀後半,スペインのカトリック両王(Reyes Católicos)による追放令(1492年)によって,数多くのセファルディ系ユダヤ人が新たな居住地を求めて地中海沿岸諸国,オスマン帝国バルカン半島北アフリカ,イタリア,エジプト,パレスチナ,シリアなどに移住した.この時期,彼らは既にそこに住んでいたミズラヒ系(東方系)ユダヤ人と交わり,独自の宗教的,文化的,社会的アイデンティティを形成した.オスマン帝国のスルタン・バヤズィト2世(II. Bayezid)は,1492年にセファルディ系ユダヤ人を積極的に受け入れ,スペインの無益な追放政策を嘲笑し「彼らは自国を貧しくし,我々を豊かにした」と言ったと伝えられている.

 セファルディ系ユダヤ人はオスマン帝国の各都市で商業や学問,医学,宗教において重要な役割を果たし,イスタンブールやサロニカ――現在のギリシャテッサロニキ――では繁栄を遂げた.セファルディ系ユダヤ人は,ユダヤ哲学,詩,聖書注釈,タルムードやハラーハー(ユダヤ法)の研究,さらには科学においても極めて重要な貢献をしている.たとえば,中世スペインのユダヤ哲学者モーシェ・ベン・マイモン(Moses Maimonides)は,セファルディ系ユダヤ人としてユダヤ教法典『ミシュネー・トーラー』を編纂し,後のユダヤ学に計り知れない影響を与えた.マイモンの『迷える者への導き』は,アリストテレス哲学とユダヤ教の思想を融合させたものであり,後の西洋哲学にも影響を与えている.

 本書は,セファルディ系およびミズラヒ系ユダヤ人の過去1500年にわたる歴史と文化を包括的に扱っている.セファルディ系ユダヤ人が追放後にいかにして新たな土地で文化的再生を果たしたか,そしてミズラヒ系ユダヤ人との交流を通じてどのような新しい伝統が形成されたかを示すとともに,ユダヤ神秘主義カバラ)や哲学,聖書注釈などの知的遺産に焦点を当てている.興味深いのは,ミズラヒ系ユダヤ人との交流によって,セファルディ系ユダヤ人の伝統に新たな要素が加わった点である.彼らは中東や北アフリカの音楽や料理の影響を受け,独特のユダヤ文化を発展させた.セファルディ系の音楽スタイルである「ピユート」と呼ばれる宗教詩の旋律は,アラブ音楽のリズムやメロディに触発され,ミズラヒ系ユダヤ人との共同体で発展したものだ.

 本書の意義は,セファルディ系およびミズラヒ系ユダヤ人の歴史が単なる過去のものではなく,現代においても依然として深い影響力を持ち続けていることを示している点にある.セファルディ系およびミズラヒ系ユダヤ人の存在は,イスラエルにおける「東洋」と「西洋」という二分法的な文化的枠組みに挑戦し,多文化主義を促進する要因となっている.イスラエル社会において東洋的な要素を持ち込み,西洋的な文化や価値観を持つアシュケナジ系ユダヤ人と共存しながらも,独自の文化的アイデンティティを強く保持している.この共存は、イスラエルが単一文化国家ではなく、多様な文化的背景を持つ国であることを強調するものと解釈できるであろう.

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Title: SEPHARDIC AND MIZRAHI JEWRY - FROM THE GOLDEN AGE OF SPAIN TO MODERN TIMES

Author: Zion Zohar [ed.]

ISBN: 0814797067

© 2009 NYU Press