▼"Comparative Matters" Ran Hirschl

Comparative Matters: The Renaissance of Comparative Constitutional Law

 Comparative study has emerged as the new frontier of constitutional law scholarship as well as an important aspect of constitutional adjudication. Increasingly, jurists, scholars, and constitution drafters worldwide are accepting that 'we are all comparativists now'. And yet, despite this tremendous renaissance, the 'comparative' aspect of the enterprise, as a method and a project, remains under-theorized and blurry――.

 年,多くの法学者や憲法起草者は「我々は皆比較憲法学者である」という認識を共有し,他国の憲法制度を比較し研究することが標準的な方法論となりつつある.しかし,著者が指摘するように,この「比較」という要素は未だに方法論的・理論的には曖昧であり,十分に整理されていない.比較憲法学の目的や意義,それをどのように実施すべきかという根本的な問いは,問われることが少なく,そのために理論的な整理が求められている.本書は,このギャップを埋めることを目指し,比較憲法研究の知的歴史と分析的基盤を探求し,その意義と方法論を体系化する.比較憲法学の起源を辿ると,古代ギリシャまで遡ることができる.アリストテレス(Aristotelēs)は『政治学』の中で各国の憲法を分析し,最良の統治形態を追求した.このアプローチは,現代の比較憲法学の基礎ともいえる.加えて,フランスで1804年に制定したナポレオン法典は,ヨーロッパ諸国に多大な影響を与え,今も多くの国の法制度に採用されている.

 他国の法制度を参照し,自国の制度を改良するという考え方は歴史を通じて続いてきたが,比較憲法学の理論化は今も発展途上にある.著者は,比較憲法学が単なる他国の法律の模倣にとどまらず,各国の文化的背景や歴史,独自の社会構造を考慮に入れた深い理解に基づくべきだと強調する.この視点は,学際的アプローチに集約されている.社会理論,宗教,歴史,政治学,公法といった多様な領域の知見を総合することによって,従来の法学的アプローチの限界を乗り越える方法を提唱する.このアプローチは,特定の国の法制度がその国の文化的・歴史的要因と密接に結びついていることを前提にしている.たとえば,インドの憲法は,イギリスの法制度,アメリカの人権思想,そしてマハトマ・ガンジー(Mohandas Karamchand Gandhi)の宗教的・哲学的な影響が融合した結果成立している.

 こうした複雑な背景を理解するためには,単なる法的分析を超えた,多角的なアプローチが不可欠である.アメリカ合衆国憲法は,世界で最も古く,今も効力を持ち続けている憲法の一つであり,ジョン・ロック(John Locke)「社会契約論」やシャルル・ド・モンテスキュー(Charles-Louis de Montesquieu)「三権分立」の思想に大きな影響を受けている.アメリ憲法の成立には,他国の法制度や思想の輸入が重要な役割を果たしたものの,今日のアメリカでは,他国の憲法判例を参照することに対して慎重な姿勢が取られている.米連邦最高裁判事アントニン・スカリア(Antonin Gregory Scalia)は他国の判例に依拠することを批判し,アメリカ独自の法体系の維持を強調していた.こうした姿勢が,比較憲法学が実際の司法にどの程度影響を与えるかという問題を浮き彫りにする.著者の学際的アプローチは理論的には説得力があるものの,実際の司法判断や政治においてどのように機能するかは不明確である.

 たとえば,比較憲法学の研究が,実際の裁判においてどのように活用されるかについての具体的な事例やメカニズムが提示されていない.アメリカのように,国際的な法制度の影響を受け入れることに抵抗を示す国において,こうした学術的成果が司法の実務にどう反映されるかは,まだ議論の余地がある.さらに,本書の議論が西欧諸国の法制度に偏りすぎているという批判も考えられる.議論は主に西欧の法体系に基づいており,アジアやアフリカなどの非西欧諸国の法制度に対する分析が不十分である.もちろん,日本の憲法は,第二次世界大戦後,アメリカの強い影響を受けて制定されたが,その後の日本の社会や文化がどのように憲法に影響を与えてきたかについては,比較憲法学における重要なテーマの一つである.比較憲法学が真に普遍的な視点を持つためには,非西欧諸国の法制度やその文化的・歴史的背景をより深く探求することが必要なのである.

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Title: COMPARATIVE MATTERS - THE RENAISSANCE OF COMPARATIVE CONSTITUTIONAL LAW

Author: Ran Hirschl

ISBN: 0198714521

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