▼"Hofmann's Elixir" Amanda Feilding [ed.]

Hofmann's Elixir: LSD and the the New Eleusis

 Still lecturing until his death at 102, Dr Albert Hofmann would have been a remarkable man even if he hadn't discovered the chemical compound that changed the course of the 20th century – LSD. Voted the greatest living genius in a 2007 poll, the self-described 'little Swiss chemist' is as much loved and respected for his personal nobility and modesty as he is for his chemical creations, which besides LSD, include chemicals used every day in maternity and geriatric wards the world over――.

 薬エリクサーは存在していたのか.アルバート・ホフマン(Albert Hofmann)がLSDを発見したことで,20世紀の精神文化と科学の境界が大きく揺るがされた.本書は,ホフマンの業績を辿りながら,科学と神秘の間で追い求めた真理を明らかにしており,LSDという物質が持つ多層的な意味を理解するための重要な手がかりとなっている.LSDリゼルギン酸ジエチルアミド)の発見は,1938年にホフマンがスイスの製薬会社サンド社で,エルゴタミンという麦角アルカロイドの誘導体を研究していた際の偶然の成果であった.しかし,彼自身がLSDの幻覚作用を体験するのは1943年4月16日,ほんの微量のLSDを誤って摂取した時だった.ホフマンは目眩と奇妙な感覚を覚えたものの,正確な原因はつかめず,さらに慎重に調査するため,3日後に意図的に自ら摂取した.この日,自転車で帰宅する道中,視覚や感覚が歪み,世界が鮮やかに見え始めた体験をしたことから,今でも4月19日は「自転車の日」としてサイケデリック文化において記念日とされている.

 LSDの発見は1950年代後半から1960年代にかけてのカウンターカルチャーに爆発的な影響を与えた.この時期,精神科医たちがLSDを利用して人間の意識や精神障害の治療における可能性を探り始め,ハーバード大学ティモシー・リアリー(Timothy Francis Leary)は,LSDを用いて意識の拡大を促す"Turn on, tune in, drop out"というスローガンを広めた.また,ロンドンのビートルズThe Beatles),ピンク・フロイドPink Floyd)などの音楽界にも影響を与えたことで,LSDは文化的現象の一部となり,自由な精神探求の象徴として捉えられるようになった.ホフマン自身は,LSDがこのように誤解され,大衆の手に渡って乱用されることに懸念を抱いていたが,同時にそれが人間の意識を変革するための強力なツールであるとも信じていた.ホフマンはLSDを単なる幻覚剤としてではなく,「魂の薬」として捉え,精神的な癒しと成長を促す力を持つと考えていた.LSDは当初,精神分析や精神病の治療において有望視されており,スタニスラフ・グロフ(Stanislav Grof)などの精神科医が行ったサイケデリック療法の研究でその有効性が示された.

 1960年代後半,LSDの大衆的乱用が社会問題化し,米国を含む多くの国で違法化された.このことは,サイケデリック研究の停滞を引き起こし,その後数十年にわたり研究が事実上中断された.しかし,近年,LSDを含むサイケデリック物質に対する研究は再び注目を集め,うつ病PTSD心的外傷後ストレス障害),終末期の不安に対する治療法として期待されている.ホフマンの発見は一度は抑制されたものの,再び精神医学や意識研究の重要な要素として浮上してきている.ホフマンがLSDの発見者として広く知られている一方で,他の化学的業績も見逃してはならない.研究は単に精神薬理学の領域にとどまらず,医療全般にわたる多大な影響を与え続けている.ホフマンの「ミスティックでない科学者は科学者ではない」という言葉は,科学に対する根本的な姿勢を表している.科学的な探求を通じて,物質的な現象の背後にある精神的な真実を見出そうとしていた.LSDによって得られる深い霊的な体験は,ホフマンにとって自己超越や宇宙との一体感を理解する鍵であり,それは単なる化学的現象以上のものと捉えられていた.

 LSD体験は,科学者であると同時に,神秘的な探求者としての側面を強調しており,彼の人生全体にわたる精神と科学の融合というテーマが際立っている.書籍の第2部には,ホフマンの影響を受けた20世紀から21世紀にかけてのサイケデリック思想家や研究者によるエッセイが収められている.グロフやヒューストン・スミス(Huston Smith)といった思想家は,LSDが人間の意識の拡大や霊的成長にどのように寄与するかを分析し,ホフマンの発見が広範囲にわたる精神的探求の重要な要素であったことを明示している.ラルフ・メツナー(Ralph Metzner),アマンダ・フィールディング(Amanda Feilding)といった研究者たちは,LSDが精神医学や心理療法において再評価されていることを紹介し,ホフマンの遺産が現代にどのように受け継がれているかを示している.エルゴタミンやその派生物は,産科や老年医学の分野で出産時の出血管理や片頭痛の治療に利用されている.これらの実用的な化学物質は,今日でも世界中の医療現場で使われており,ホフマンの多才さと科学への貢献を物語っている.

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Title: HOFMANN'S ELIXIR - LSD AND THE NEW ELEUSIS

Author: Amanda Feilding [ed.]

ISBN: 0954805496

© 2010 Strange Attractor Press