For twelve thousand years the Galactic Empire has ruled supreme. Now it is dying. But only Hari Seldon, creator of the revolutionary science of psychohistory, can see into the future—to a dark age of ignorance, barbarism, and warfare that will last thirty thousand years. To preserve knowledge and save humankind, Seldon gathers the best minds in the Empire—both scientists and scholars—and brings them to a bleak planet at the edge of the galaxy to serve as a beacon of hope for future generations. He calls his sanctuary the Foundation――. |
アイザック・アシモフ(Isaac Asimov)「ファウンデーション」シリーズ第1作は,SF文学の金字塔であり,SFの歴史・文化にも多大な影響を与えた.1951年に初出版されたこの作品は,科学と歴史を融合させた独創的な世界観と,哲学的テーマで評価されている.シリーズ全体が宇宙規模の物語を描く一方で,個々のキャラクターの人間性や,文明が崩壊と再建を繰り返すサイクルに焦点を当てる.この背景には,アシモフが科学者としての経験を活かしつつ,歴史学への関心を強く反映させていることが伺える.アシモフは科学者としても著名で,人気のある科学啓蒙書も執筆しており,科学への深い理解が「ファウンデーション」の中でも大きく活かされている.例えば,「心理歴史学」という架空の学問は,統計学や社会科学をベースにしている.個々の人間の行動は予測できないものの,集団としての人間の行動は数学的に予測可能であるとする考えは,科学的合理主義やデータの重要性への信念に強く結びついている.
1920年代の天文学的発見に影響を受け,エドウィン・ハッブル(Edwin Powell Hubble)の宇宙膨張の発見が大きなインスピレーションを与えている.このアイデアにより,アシモフは広大な銀河系全体に人類が広がる未来社会を描いた.「ファウンデーション」のストーリーは,銀河帝国の崩壊とそれに続く暗黒時代を中心に描かれている.このテーマは,アシモフがエドワード・ギボン(Edward Gibbon)『ローマ帝国衰亡史』に強く影響を受けたことに由来する.ローマ帝国の崩壊と中世の暗黒時代との歴史的な類似性を,未来の銀河規模の社会に置き換えて描いている.ギボンに強く影響を受けたアシモフは,歴史が繰り返されるというアイデアを物語に取り入れ,帝国の滅亡後にどのようにして文明が再興されるかを探求する構成にしている.帝国の崩壊を不可避と見なし,ファウンデーションを設立して知識を保存しようとする点は,ローマ帝国崩壊後にアラビアや中世ヨーロッパで学問が受け継がれた歴史的事例と一致する.
「ファウンデーション」が執筆された1950年代は,冷戦時代の真っ只中であった.アシモフはこの時代の緊張感や,文明が崩壊する恐怖に着目した.核戦争のリスクが高まり,文明の脆弱性と知識の保存の重要性が強調される時代背景が,「ファウンデーション」のテーマに色濃く反映されている.冷戦期のアメリカ社会は,技術革新と軍事力の拡大が進む一方で,世界的な破滅の危険も孕んでいた.知識を保存し暗黒時代を最小限に抑える計画を重視している点は,この時代の危機感を反映したものである.「ファウンデーション」はまた,ジョージ・ルーカス(George Lucas)「スター・ウォーズ」シリーズにも大きな影響を与えている.ルーカスは,銀河規模の帝国の崩壊と反乱というテーマや,壮大な政治劇を描く際にアシモフの作品を参考にした.「スター・ウォーズ」に登場する帝国と反乱軍の構図は,「ファウンデーション」の銀河帝国とファウンデーションの対立と類似している.
本シリーズは続編や外伝が次々に発表され,アシモフの死後もファンや他の作家によって拡張されている.特筆すべきは,アシモフがシリーズを執筆するうちに,自身の他の作品群ともリンクさせた点である.「ロボット」シリーズや「銀河帝国」シリーズとの統合が進み,最終的にはアシモフの広大な宇宙を一つの統一した世界観として描く試みがなされた.「ファウンデーション」は単なる一つの物語に留まらず,アシモフのライフワーク全体の一部として位置づけられる.知識の保存と伝達,文明の崩壊と再興は,今日のデジタル社会においても重要な課題であるはずだ.ビッグデータや人工知能が進化する現代において,未来を予測する技術や,社会全体の動向を把握する試みが増加している.アシモフが提唱した心理歴史学の概念は,単なる空想の産物ではなく,現代の社会科学や統計学の発展とも関連している.この点で,アシモフのビジョンは未来を予見するものだったといえるだろう.
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Title: FOUNDATION
Author: Isaac Asimov
ISBN: 0553293354
© 1991 Spectra