▼"The Price of Time" Edward Chancellor

The Price of Time: The Real Story of Interest

 In the beginning was the loan, and the loan carried interest. For at least five millennia people have been borrowing and lending at interest. The practice wasn’t always popular—in the ancient world, usury was generally viewed as exploitative, a potential path to debt bondage and slavery――.

 融論にとどまらず,金利というテーマを通して人類の歴史,経済,社会構造の深層に迫る刺激的な分析である.金利を「時間の値段」として捉える視点は,経済活動の基盤である時間の価値を反映する要素である認識を示している.これを理解するには,金利の歴史的役割と,その文化的・社会的な影響について知ることが必要である.まず,古代文明における金利の位置づけを見てみよう.メソポタミアハンムラビ法典(紀元前1754年頃)には,金利に関する規定が詳細に記されており,これは人類史上最も古い金利に関する法的文書の一つである.法典では,借り手が天候や自然災害で作物を失った場合,借金の返済が免除される条項が含まれており,金利が単なる経済的取引を超えた,人道的な考慮の対象であったことが分かる.古代エジプトでは,作物や家畜などの形で金利が取られており,これらが収穫や家畜の増殖によって返済された.ナイル川の氾濫が予測可能であったため,農業に基づく社会であったエジプトでは,金利が自然の周期と密接に結びついていた.時間と利子の概念が物理的な現象に基づいていたという点で,本書の「時間の価格」という考え方に通じる.

 中世ヨーロッパに目を移すと,キリスト教社会では長らく高利貸しは道徳的に非難されていた.カトリック教会は聖書に基づき,貸付金に利子を取ることを「高利貸し」と見なして禁じていたが,実際には,教会そのものが高利貸し業を行っていたこともあった.この矛盾が顕著に現れたのが,フィレンツェメディチ家などの富裕な銀行家たちである.彼らは教会と結びつきながらも,巧妙に法を回避しつつ,ヨーロッパ全土で金融業を展開した.さらに,イギリスではエリザベス1世王朝の時代に初めて金利に上限が設けられたが,この法はイギリス経済の発展を後押しする重要な役割を果たした.特筆すべきは,イギリスの東インド会社である.高い金利で資金を調達し,世界貿易を支配するほどの莫大な利益を上げた.これにより,金利が国家的な経済力を左右する重要なファクターであることが明らかになった.この時期,金利が国際的な経済覇権を争う要因の一つとして機能していた一方,アメリカにおいては,金利が社会的な問題に直結した.

 1930年代の大恐慌時代には,FRB米連邦準備制度理事会)が金利を引き下げることで,経済を刺激しようと試みたが,それでも不況から脱却するのは難しかった.この時期にジョン・メイナード・ケインズJohn Maynard Keynes)が「有効需要の不足」を説き,政府が積極的に経済に介入して需要を喚起することを提唱した.ケインズ経済学が主流になる中,金利の管理は国家の経済政策の柱となったのである.最近の金利の低下は,2008年の世界金融危機をきっかけに世界中で見られる現象だ.低金利政策は,住宅バブルをはじめとする資産価格バブルを引き起こした.この問題の根源は,金融機関がリスクを適切に評価できなくなり,投機的な行動に走ったことにある.アメリカの住宅ローンバブルの背景には,「NINJAローン」という言葉が登場したことが挙げられる.この言葉は「No Income, No Job, No Assets(収入なし,仕事なし,資産なし)」の略で,信用力のない人々に対しても無理やり融資が行われたことを示している.これがサブプライムローン危機の引き金となった.

 本書は,こうした歴史的・現代的な事例を通じて,金利がどのように経済全体を揺るがしてきたのかを明らかにしている.金利はただの経済的なパラメータではなく,時間,リスク,社会の均衡に影響を与える力である.金利は古代の法典から現代の金融政策に至るまで,人間社会の発展に深く関わっている.そしてその金利がいかにして現在の低迷を生み出し,未来を不透明にしているのか,その理解はますます重要になっている.なお,世界で最も高い金利を課したのは18世紀のロシアで,当時の金利はなんと100%を超えることもあったという記録がある.これは戦争や経済危機が重なった特殊な状況下での例だが,金利が極端なまでに上昇した場合,どれほど社会が混乱するかを示すエピソードである.金利という一見平凡な概念が,実は我々の日常生活や経済活動にどれほどの影響を与えているかを理解する上で,本書は非常に示唆に富んでいる.

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Title: THE PRICE OF TIME - THE REAL STORY OF INTEREST

Author: Edward Chancellor

ISBN: 0802160069

© 2022 Atlantic Monthly Press