▼"Annals of the Caliphs' Kitchens" Nawal Nasrallah

Annals of the Caliphs' Kitchens: Ibn Sayyar al-Warraq's Tenth-Century Baghdadi Cookbook (Islamic History and Civilization)

 Written nearly a thousand years ago, al-Warraq's cookbook is the most comprehensive work of its kind. This traditional cookbook with more than 600 recipes from the luxurious cuisine of medieval Islam is also a rare guide to the contemporary culinary culture. Its numerous anecdotes and poems unfold the role of food in the politics of Islam's golden era――.

 1,000年前の中世イスラムの豪華な料理文化を網羅し,600以上のレシピを収録している.単なる料理レシピ集にとどまらず,食事が当時の政治や社会にどのように影響を与えていたかを語る逸話や詩が含まれており,中世イスラムの黄金期における食事の役割を描いている.支配者層や市民が食卓を囲み,豪華な食事を通じて生活や儀礼を彩っていた様子が克明に記されている.この時代の食文化は,食事は単なる栄養摂取ではなく,贅沢さや地位を示す手段でもあった.カリフや高位の官僚たちは,豪華な宴会を催し,自らの富と権力を誇示することを重視した.

 食材そのものにも権力と交易の影響が見られ,当時のイスラム世界では,サフランやシナモンなど,香辛料が高価な財として取引されていた.これらの香辛料は,料理に独自の風味を与えるだけでなく,宴席での威信を高める要素でもあった.当時の料理は,地域を越えた文化交流の産物だったのである.イスラム帝国が広大な領域を支配していたため,ペルシャ,ビザンティン,そしてインドなどの異なる地域の料理が融合し,多様な食文化が形成された.たとえば,「フェンネル」や「アーモンドペースト」はペルシャからの影響を受け,「ごま」や「ナツメヤシ」はアラビア半島,そして米や砂糖はインドから伝わり,イスラム料理の中に取り入れられた.

 ナスやズッキーニといった野菜がイスラム圏を通じてヨーロッパに伝播したことも,食材の歴史的な交流の一例である.シルクロードを介した交易路は,食文化の流れを加速させ,現在の多国籍料理の先駆けとも言える豊かな文化的融合をもたらした.本書には,当時の食文化や歴史的背景についての詳細な解説が加えられているほか,アラビア語と英語で書かれた中世の食材や料理の用語集,そして歴史的人物に関する付録が収録されている.これにより,研究者から一般読者まで,幅広い層にとって貴重な参考資料となっている.30以上のカラーイラストが添えられており,視覚的にも魅力的な仕上がりとなっている.

 アラビア料理に欠かせないハリッサ(唐辛子ペースト)や,ザアタル(ハーブのミックス)は,今日でも広く愛されているが,これらの料理や調味料が中世に発展し,地域ごとの変遷を経て現代に伝わったことは,歴史的な背景を持つ.料理に興味がある読者には,ポッドキャスト"A Thousand and One Recipes: Caliphate Cooking in 10th Century Baghdad"を通じて,当時の料理を再現することもおすすめである.このポッドキャストでは,ラフビーニヤ(乾燥バターミルクを使用した料理)や,ジャザル・マフシ(冷たい人参料理)など,中世のレシピを紹介している.これらの料理を現代のキッチンで再現することで,10世紀のバグダッドの食卓を体験できるだろう.

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Title: ANNALS OF THE CALIPHS' KITCHENS - IBN SAYYAR Al WARRAQ'S TENTH CENTURY BAGHDADI COOKBOOK

Author: Nawal Nasrallah

ISBN: 9004188118

© 2010 Brill Academic Pub