In this new collection of reviews and essays, Jonathan Rosenbaum focuses on the political and social dynamics of the contemporary movie scene. Rosenbaum, widely regarded as the most gifted contemporary American commentator on the cinema, explores the many links between film and our ideological identities as individuals and as a society――. |
ジョナサン・ローゼンバウム(Jonathan Rosenbaum)の映画レビューは,映画界における政治的・社会的な力学に鋭く迫り,その批評の深さと広さで他の評論家と一線を画すものだった.映画と社会のイデオロギーやアイデンティティのつながりを精緻に探究し,考察を促す.例えば,「ドゥ・ザ・ライト・シング」(1989)の議論における人種的ステレオタイプの問題,アフリカ,中国,日本,台湾,ハリウッド・ミュージカルやフランスの連続劇,そしてロシア革命,公民権運動,ベトナム戦争を題材にした映画に見られる「文化的健忘症」を鋭く分析している.ローゼンバウムが取り上げる映画作品には,「シンドラーのリスト」(1993),「スター・ウォーズ」(1977),「パルプ・フィクション」(1994),「フォレスト・ガンプ」(1994),「ピアノ・レッスン」(1993),など幅広いジャンルが含まれている.さらに,オーソン・ウェルズ(Orson Welles),ジャック・タチ(Jacques Tati),ニコラス・レイ(Nicholas Ray),シャンタル・アケルマン(Chantal Akerman),アンドレイ・タルコフスキー(Андре́й Арсе́ньевич Тарко́вский)といった独自のキャリアを持つ監督たちの作品にも光を当て,映画製作や映画鑑賞が社会や文化に与える深い影響を浮き彫りにしている.
映画評論において重要なのは,映画がどのようにして観客に特定の歴史観やイデオロギーを刷り込む手段となっているかを暴くことである.「シンドラーのリスト」は,ホロコーストの記憶を観客に喚起する一方で,歴史的事実をドラマティックに再構成していることが批判されてきた.スティーヴン・スピルバーグ(Steven Spielberg)は撮影中に心理的な負担から撮影現場を離れたくなるほどの感情的な影響を受け,俳優に感情移入しすぎないよう冷静さを保つため,セットに派遣された心理学者の助言を受けながら制作を進めた.また撮影中,「ジュラシック・パーク」(1990)のポストプロダクションも並行して行っていたが,精神的な重さがあった「シンドラーのリスト」に対して,「楽園への逃避」として機能していたという.「スター・ウォーズ」に関しては,ジョージ・ルーカス(George Walton Lucas)が黒澤明監督の「隠し砦の三悪人」(1958)に強い影響を受けた.作品の構造やキャラクターのダイナミクスが,ルーカスのスペースオペラに深く反映されており,C-3POとR2-D2のキャラクターは,黒澤映画の2人の農民の役割を元にしている.また「フォース」の概念は,東洋思想,とりわけ道教における「気」の概念に近いと言われており,ルーカスの多文化的なインスピレーションがうかがえる.
「パルプ・フィクション」は,クエンティン・タランティーノ(Quentin Jerome Tarantino)の斬新な語り口と独特の時間構成が特徴である.タランティーノはビデオショップで働いていた時代に無数のB級映画やカルト映画を観賞し,それらが彼の映画作りの原動力となった.「パルプ・フィクション」の脚本を執筆した際,実際に自身が映画で使用するために作成した架空のブランド"Big Kahuna Burger" "Red Apple Cigarettes"は,その後のタランティーノ作品にもしばしば登場し,彼の映画世界に独自の統一感を与えている.ローゼンバウムは,「フォレスト・ガンプ」に見られるアメリカの歴史的出来事の描き方を批判している.映画が描くアメリカの過去は,感傷的で無害なものとして提示されるが,実際にはその時代の複雑さを単純化し,歴史的な問題を無視する形で描かれている.この作品は興行的に大成功を収めたが,ベトナム戦争や公民権運動の扱い方については,批評家からは賛否が分かれた.「フォレスト・ガンプ」に登場する数々のCG技術は革新的であり,トム・ハンクス(Thomas Jeffrey "Tom" Hanks)演じるガンプがジョン・F・ケネディ(John Fitzgerald Kennedy)などの歴史的な映像に合成されるシーンは,当時最先端の技術として話題になった.
ローゼンバウムはまた,オーソン・ウェルズの「市民ケーン」(1941)が当初商業的に失敗し,彼のキャリアを一時的に停滞させた事実に触れつつも,その後の映画史において「史上最高の映画」として称賛されるまでに至った経緯を分析している.ウェルズが当時わずか25歳でこの映画を監督したという事実は,天才性を示すものである.「深度焦点撮影」という技法を駆使し,すべての画面要素に同時にピントを合わせることで,観客がより複雑な物語の解釈をできるようにした.この技法は後の多くの映画製作者に影響を与えた.ローゼンバウムの批評の特徴は,単に映画を評価するだけでなく,映画が社会や文化に及ぼす影響,さらには観客が映画を通じてどのように歴史やイデオロギーを内面化するかにまで踏み込む点にある.映画は娯楽であると同時に,時に政治的な道具としても機能する.その意味で,ローゼンバウムは映画の持つ社会的役割を読み解き,観客に対して批判的に考えることの重要性を提示している.
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Title: MOVIES AS POLITICS
Author: Jonathan Rosenbaum
ISBN: 0520206150
© 1997 University of California Press