▼"The Early Britannica" Frank A. Kafker, Jeff Loveland [ed.]

Early Britannica: The Growth of an Outstanding Encyclopedia (Oxford University Studies in the Enlightenment)

  The Encyclopaedia britannica is a familiar cultural icon, but what do we know about the early editions that helped shape it into the longest continuously published encyclopedia still in existence? This first examination of the three eighteenth-century editions traces the Britannica's extraordinary development into a best seller and an exceptional book of knowledge, especially in biography and in the natural sciences――.

 リタニカ百科事典は単なる情報源以上の役割を果たし,時代とともに大きく進化してきた.1768年,スコットランドエディンバラで初版が出版されて以来,各版はどのように知識の集大成となり,現代の百科事典の基礎を築いてきたのだろうか.1768年から1771年にかけて出版された初版は,全3巻で構成され,合計2,391ページという比較的小規模な分量であった.しかし,内容は多岐にわたり,自然科学や医学,工業技術,さらには日常生活の実用的な知識までを網羅していた.例えば,蜂蜜酒(ミード)の作り方,家庭菜園の手法,羊毛染色の技術などが紹介され,さらには骨折や火傷の応急処置の方法も詳述されていた.こうした実用的な記述が豊富であったため,ブリタニカは学術書以上に日常生活のガイドブックとしても活用され,幅広い層に支持されたのである.編集者ウィリアム・スメリー(William Smellie)は,スコットランド啓蒙運動の影響を受けており,知識の普及を目的として編集方針を打ち立てた.スメリーは自身が持つ印刷技術や製本技術の知識を活かし,校正から製本まで厳密な管理を行い,品質の高さを確保した.この徹底した品質管理は,知識を正確に伝えるための土台となり,百科事典としての信頼性を築く要素にもなった.

 また,自然科学や最新技術の情報を分かりやすく解説し,電気実験装置や動植物の精密なイラストなど,視覚的に理解しやすい工夫がされていた.この「視覚的な知識の伝達」は,後にブリタニカの特徴となり,百科事典がただの文字情報ではなく,図版によっても豊富な知識を提供できることを証明した.初版は資金不足に悩まされていたこともあり,革新的な販売戦略が採用された.それが「分冊形式」である.少しずつ発行される冊子を購読者が購入して集め,最終的に全巻を揃えるという方式で,読者に最新の知識を逐次提供する形となった.この定期購読方式は当時としては斬新で,後の出版業界における雑誌や書籍の定期購読モデルの先駆けとなった.定期購読によって,知識へのアクセスが幅広い読者層に開かれたため,ブリタニカは中流階級や職人層など,従来の学術書が届かなかった層にも普及することができたのである.18世紀の知的世界において,ブリタニカとフランスの「エンサイクロペディ」との関係は重要である.エンサイクロペディはジャン=ジャック・ルソー(Jean-Jacques Rousseau)やヴォルテール(Voltaire)ら思想家が参画し,急進的な啓蒙思想を広めることを目的としていた.

 政治や宗教改革に関する革新的な議論が含まれたエンサイクロペディは,知識人層に強い影響を与え,時に政府の検閲を受けることもあった.一方,ブリタニカは自然科学や工業技術に重点を置き,より中立的で実用的な立場を維持した.エンサイクロペディが「社会契約」「宗教批判」といった哲学的なテーマを中心に据えたのに対し,ブリタニカは蒸気機関の設計図や農業技術の具体的な手法など,産業革命の実用的な知識を読者に提供した.この違いにより,エンサイクロペディが知識人層に支持されたのに対し,ブリタニカは中流階級や職人層にとっても価値のある情報源となり,幅広い層に普及したのである.ブリタニカは,初期の段階では今日のようなアルファベット順の構成ではなく,巻ごとにテーマを設定する形式で構成されていた.医学や地理,工業技術などの分野がそれぞれの巻で集中的に取り扱われる形であった.この形式は,特定の専門分野に対する知識を体系的に提供するには効果的であったが,百科事典として体系的に知識を学びたい読者にとっては使いにくかった.こうした構成は後の版で改良され,第三版からはアルファベット順に項目を並べる現在の形式が採用され,百科事典のスタイルが確立された.

 第三版では,時代の流行や関心に応じた内容の追加が行われ,特に動物学や植物学といった自然史の項目が充実した.探検や植民地の拡大が進む当時,ヨーロッパの読者は新たに発見される動植物や異文化への興味を高めており,ブリタニカもそれに応える形で内容を拡充した.第三版には「恐竜」という言葉が初めて登場し,これがのちの自然科学における発展に寄与したとされる.さらに,「新世界の動物」や「人間の知恵」といった項目が追加され,時代と共に進化し続ける百科事典としての姿勢が明確化されたのである.ブリタニカ初期3版の寄稿者たちは,出版背景や編集方針の変化,時代の知的潮流がどのように反映されたかを詳細に分析している.スコットランド啓蒙運動の知的な中心地であったエディンバラで生まれ,産業革命期を通じて成長したブリタニカは,知識の集積地であるだけでなく,時代の知的潮流や社会的ニーズを反映する存在であった.ブリタニカは,あらゆる階層の読者に知識を届けることで,単なる情報源を超えた知的指針としての役割を果たし,時代と共に進化を続けた.スコットランド啓蒙運動の中で,知識と科学の普及を推進した背景が,ブリタニカをして単なる情報源ではなく,知的好奇心を刺激し,未来に向けた知識の蓄積として位置付けられる存在に成長させたのである.

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Title: THE EARLY BRITANNICA - THE GROWTH OF AN OUTSTANDING ENCYCLOPEDIA

Author: Frank A. Kafker, Jeff Loveland [ed.]

ISBN: 0729409813

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