The inside story of Lee Harvey Oswald's path to killing John. F. Kennedy. Reissued to mark the 50th anniversary of the Kennedy assassination,Marina and Lee is an indispensable account of one of America's most traumatic events, and a classic work of narrative history. In her meticulous, at times even moment by moment, account of Oswald's progress toward the assassination, Priscilla Johnson McMillan takes us inside Oswald's fevered mind and his manic marriage――. |
JFK暗殺というアメリカ史上最も衝撃的な事件の核心に迫り,単なる歴史的記録を超えて生々しい人間ドラマを描き出している.本書の再刊が求められたのは,暗殺50周年の節目にあたり,その衝撃的な事件の真実を新たな世代へ伝えるべきとする声が高まったからであった.リー・ハーヴェイ・オズワルド(Lee Harvey Oswald)がいかにして大統領ジョン・F・ケネディ(John Fitzgerald Kennedy)暗殺を犯すに至ったのか,その背景と精神状態,そして妻マリーナ(Marina Nikolayevna Oswald Porter)との複雑で狂気的な関係を,徹底した取材と証言によって描き出している.著者の視点は極めて特殊であり,偶然にもケネディとオズワルドの両方と個人的な接点を持つ人物であった.著者は1950年代にケネディの秘書として働き,ケネディ家の暮らしや彼の政策形成に影響を与えた政治的信条,家族観をよく知る人物であった.また,ケネディが抱いていた当時の冷戦政策に関する信念にも触れた数少ない人物の一人であり,それがケネディのカリスマ性と弱点を知るための手がかりとなっていた.
著者はジャーナリストとしてモスクワで活動していた際に,ソ連に亡命しようとするオズワルドに直接インタビューを行っている.このインタビューは,オズワルドが米国を「資本主義の偽善」と批判し,共産主義国家の理想を追い求める一方で,実際には深い孤独感と社会からの疎外感に苦しんでいたことを浮き彫りにした.オズワルドは1960年,アメリカからソ連への移住を試みた際,自らの手首を切り重傷を負いながらもソ連政府に亡命を願い出た.結局,ソ連は彼を受け入れることに消極的であったが,オズワルドは一時的な居住許可を得てミンスクで生活することとなった.オズワルドがアメリカとソ連のはざまで揺れ動き,理想と現実の狭間で精神的な不安定さを深めていく様子を,著者は当時から見ていたのである.本書は,オズワルドとマリーナの結婚生活の不安定さも克明に描かれている.2人の関係は情熱的であった反面,暴力や絶望に満ちたものであった.オズワルドは頻繁にマリーナを虐待し,精神的にも支配しようとした.アメリカへ戻ることを決意したとき,マリーナは当初反対したが,強引な説得と威圧に屈し,幼い娘とともにアメリカへ移住することとなった.
渡米後も彼らの生活は貧困と孤立に苦しみ続け,オズワルドは職を転々としながらますます不安定な精神状態に陥っていった.その中で,ケネディに対する異常な敵意を抱き始め,「反共主義」「アメリカ資本主義の象徴」としての存在を憎悪の対象に変えていったのである.本書で特に印象的なのは,オズワルドが暗殺前に行った奇妙な行動の数々である.ケネディ暗殺のわずか数ヶ月前,テキサス州ダラスで極右的な反共主義団体に接触し,FBIやCIAの監視下にあることに気づきながらも「愛国者」を自称してケネディを倒すことを考えていた.また,自分の存在を歴史に残したいという一種の自己顕示欲にも突き動かされており,独りよがりの理論と誇大妄想の中でケネディ暗殺を計画していったとされている.ケネディ暗殺当日,マリーナがガレージでオズワルドのライフルがなくなっていることを確認し,夫が関与したことを悟ったときの描写は,読み手に強い衝撃を与える.まだ生後数週間の2人目の子供を抱え,突然の悲劇に直面することになった.事件後,FBIやメディアの激しい取材に追われ,アメリカ社会で孤立を深めることとなったが,マリーナの証言はオズワルドの精神状態や結婚生活の歪みを浮き彫りにした.
本書は単なる陰謀説を追うことなく,人間の心理と現実の残酷さに真正面から向き合っている.人間の「内なる暗部」としてのオズワルドを描き,歴史的事実を冷静に掘り下げながら,自己疎外や社会的孤立がどのようにして個人を極端な行動に追い込むかを浮き彫りにしている.多くの人がケネディ暗殺の背後に巨大な陰謀を求めるが,本書はむしろ,オズワルドという一人の不安定な男が犯した悲劇の原因が,現実のなかに埋もれていることを強調している.この「現実の方が空想よりも恐ろしい」という感覚が本書の特徴であり,単なる陰謀論よりも深い恐怖と憐れみを覚える所以である.JFK暗殺という事件を通して,人間がいかにして過ちを犯し,他者の運命を破壊していくかを理解させる名著である.それは「歴史の1ページ」ではなく,今日の社会においても繰り返される孤独と絶望,そして人間の内面に潜む破壊衝動についての普遍的な警鐘となっている.
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Title: MARINA AND LEE - THE TORMENTED LOVE AND FATAL OBSESSION BEHIND LEE HARVEY OSWALD'S ASSASSINATION OF JOHN F. KENNEDY
Author: Priscilla Johnson McMillan
ISBN: 1586422162
© 2013 Steerforth