▼"The Last Man Who Knew Everything" Andrew Robinson

The Last Man Who Knew Everything: Thomas Young, The Anonymous Polymath Who Proved Newton Wrong, Explained How We See, Cured the Sick, and Deciphered the Rosetta Stone, Among Other Feats of Genius

 Physics textbooks identify Thomas Young (1773-1829) as the experimenter who first proved that light is a wave--not a stream of corpuscles as Newton proclaimed. In any book on the eye and vision, Young is the London physician who showed how the eye focuses and proposed the three-color theory of vision confirmed only in 1959. In any book on ancient Egypt, Young is credited for his crucial detective work in deciphering the Rosetta Stone――.

 マス・ヤング(Thomas Young)は,生涯を通じて様々な分野で画期的な貢献を果たしたが,その多才さは一部では学界から反感を買い,十分に評価されることが少なかった人物である.光学分野で行った実験では,光がアイザック・ニュートン(Isaac Newton)の主張する粒子ではなく波であることを証明した.この「二重スリット実験」は,光の干渉を観察することで波動性を立証し,現在に至るまで光の性質についての基本的な理解を支える研究とされている.しかし,当時の物理学界はニュートンの権威に圧倒され,ヤングの波動説は厳しく批判され,その功績は20年近くも埋もれる結果となった.ヤングの好奇心は物理学だけに留まらなかった.視覚理論においては,人間の目が赤,緑,青の三色の光に反応し,これによって全ての色を知覚するという「三色説」を提唱した.これは1959年に科学的に証明され,現在の色覚の基礎理論とされている.

 古代エジプトの言語や文字にも関心を抱き,ロゼッタ・ストーンを用いた解読で大きな進展をもたらした.古代エジプト学の父ジャン=フランソワ・シャンポリオン(Jean-François Champollion)は,ヤングの解読を基盤として象形文字の完全な解読を成し遂げたが,ヤングの貢献は今日まで十分に認識されていない.ヤングは百科事典『エンサイクロペディア・ブリタニカ』新版に寄稿する際,アルファベット,年金,引力,毛細管現象,凝集力,色,露,エジプト,目,焦点,摩擦,暈(かさ),象形文字,水力学,運動,抵抗,船舶,音,強度,潮汐,波,そして医学に関するテーマについての執筆を提案し,すべて匿名での執筆を望んだという.自身の知識の豊富さに自負を持ちながらも,個人としての名声には執着せず,むしろ知識そのものの普及を優先した人物であった.この姿勢は,生涯にわたり貫いた謙虚さを象徴している.ヤングはロンドンで医学を学び,医師としても活動していたが,医学の知識を深めるためにアイスランド語アラビア語など複数の言語を学び,それを活かして医学文献の翻訳や解説を行った.

 医学においても貢献を続けており,「ヤング則」として知られる弾性理論においては,物体がどのように変形するかを数学的に説明する式を提案し,これは現代の材料工学にも欠かせない理論である.ヤングが30歳になる前,王立協会でほぼ全分野の科学知識を網羅する講義を行った.この講義は当時の科学界において驚異的な広がりを持っており,物理学から生理学,工学に至るまで多岐にわたった内容がカバーされていた.しかし,あまりにも幅広い分野への知識が却って評価を複雑化させ,学界からは「何でも知っているが,深くはない」という批判を受ける原因となった.波動説への攻撃は激しく,その結果イギリスではヤングの理論は一時忘れ去られた.実に皮肉なことに,理論はフランスで再発見され,そこからようやく世界的な注目を浴びるようになった.今日,専門化が進む現代社会では,ヤングのような博識の持ち主は「知識の浅いゼネラリスト」と見なされるかもしれないが,このような人物が存在しなければ,新しい分野の扉を開くことも難しいのではないだろうか.

 本書は,科学,工学,生理学,言語学といった多岐にわたる分野におけるヤングの貢献を包括的に捉えており,その生涯がいかに学術的な好奇心に満ち溢れていたかを見事に描き出している.またヤングの生活や個性についても,興味深い描写がなされている.彼は医師としてのキャリアを築こうとしたが,その医療行為にも専念しきれず,結局多分野に散漫な関心を持ち続けた.さらには開拓した知識が,後世の研究者たちにとって貴重な基礎となることを理解していたこともあり,自らの限界や弱点を知る「真の自己認識」を持った人物であった.このように真に純粋な知識探求者が存在すること自体が,現代の分野分化が進む社会においても重要な意義を持つだろう.本書は,ヤングの業績が多岐にわたりすぎているため,その評価は困難であることを指摘する.ヤングは,自分が十分に理解していない分野には謙虚であり,『エンサイクロペディア・ブリタニカ』の寄稿依頼も一部断ったほどであったが,最終的には幅広い知識を駆使して膨大な量の記事を書き上げたのである.

++++++++++++++++++++++++++++++

Title: THE LAST MAN WHO KNEW EVERYTHING - THOMAS YOUNG, THE ANONYMOUS POLYMATH WHO PROVED NEWTON WRONG, EXPLAINED HOW WE SEE, CURED THE SICK, AND DECIPHERED THE ROSETTA STONE, AMONG OTHER FEATS OF GENIUS

Author: Andrew Robinson

ISBN: 0131343041

© 2005 Pi Press