In the American imagination, the Soviet Union was a drab cultural wasteland, a place where playful creative work and individualism was heavily regulated and censored. Yet despite state control, some cultural industries flourished in the Soviet era, including animation. Drawing the Iron Curtain tells the story of the golden age of Soviet animation and the Jewish artists who enabled it to thrive――. |
冷戦下のソビエト連邦におけるアニメーション産業の興隆,それを支えたユダヤ系アーティストたちの存在を鮮やかに描き出す.ソビエト連邦は,しばしば抑圧的で個性を重視しない体制とアメリカからは見なされていたが,実際には抑圧と制限の下で芽生えた多様な文化と芸術が存在した.代表的なものが,国営アニメーションスタジオ「ソユズムリトフィルム」である.本書は,ソユズムリトフィルムがユダヤ系アーティストを含む多様な人材の集う場となり,異なる文化的背景や価値観が混じり合った創造の温床であったことを明らかにしている.ソビエト連邦では,しばしばユダヤ人が国家の疑念の目で見られ,時にはプロフェッショナルなキャリアが制限されることもあった.しかし,ソユズムリトフィルムではアニメーションという形で自らのアイデンティティを表現できる貴重な機会が与えられていた.この点で同スタジオは単なる制作拠点以上の意味を持っていた.
ソビエトのアニメーションはしばしば他国の影響も受けつつ,独自の特色を確立していた.アニメーションの色彩表現においては,フランスや日本のアニメーションの鮮やかな色彩とは対照的に,淡い色調やミニマリズムが好まれた.これは,当時のソビエトが物資不足に直面していた影響で,カラーインクの使用が制限された結果であるとも言われるが,逆にその制約が独特の詩情や叙情性をもたらした.「霧の中のハリネズミ」などの作品は,そのミニマリズムが視聴者の想像力を刺激する一因ともなった.絵本作家エドゥアルド・ニコラエヴィチ・ウスペンスキー(Эдуард Николаевич Успенский)による"チェブラーシカ"についても深い背景がある.このキャラクターのデザインは,当時の西側アニメーションの影響を受けながらも,あえて「人間に近い動物」として表現され,ディズニーのミッキーマウスとは異なる「仲間の象徴」としての役割を担った.
キャラクターの性格づけもまたソビエト独特であり,チェブラーシカは孤独で少し不器用だが,仲間と協力して困難を乗り越えるというテーマが描かれた.これにより,チェブラーシカは単なる人気キャラクターにとどまらず,ソビエト社会の価値観を象徴する存在として多くの人々に愛された.ソユズムリトフィルムは当初,政府の厳しい監視下でプロパガンダを制作する機関とされていたが,実際には自由な創作が許される「隠れ家」としても機能していた.ソユズムリトフィルムの作品には,共産主義的なイデオロギーが色濃く反映されているように見えるが,よく見ると個人主義や人間性を称える要素が散りばめられている.戦時中の短編アニメーションでは,動物キャラクターが集団として協力し合いながら戦う一方で,その中に葛藤や不安が描かれ,個々のキャラクターが苦悩する姿も表現されている.
これは,ソビエトのイデオロギーの中で個人の感情を隠すことなく描く一つの手段であったと考えられる.本書は,このようにソビエトアニメーションが国家のプロパガンダを超えて,創造性と多様性が同居する場であったことを示している.著者は,ソユズムリトフィルムで生まれたアニメーションが単なるエンターテインメントにとどまらず,社会的メッセージや異文化理解の象徴として,冷戦下におけるソビエトの「ソフトパワー」として機能したことを指摘している.ソビエトアニメーションがただの国家宣伝で終わることなく,むしろ異なるバックグラウンドを持つ人々が集まり,共に作品を作り上げることで,厳しい管理社会の中においても普遍的な価値や感情を表現する貴重な媒体となったことを教えてくれる.
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Title: DRAWING THE IRON CURTAIN - JEWS AND THE GOLDEN AGE OF SOVIET ANIMATION
Author: Maya Balakirsky Katz
ISBN: 0813576628
© 2016 Rutgers Univ Pr