本書が解説する国際財務報告基準(IFRS)は,経済のグローバル化が進む中,その重要性も高まってきており,日本の会計基準にも大きな影響を与えている.本版では,旧版刊行後のIFRSの新設改廃へ対応するとともに,日本の会計基準の新設改廃への対応を行い,2つの会計基準の比較情報もブラッシュアップを行った――. |
財務報告の透明性と一貫性が企業の信用力や投資家の意思決定において重要な役割を果たすビジネス環境において,国際会計基準(IAS)および国際財務報告基準(IFRS)を理解することは必須である.異なる国々で採用されている会計基準は,国際的な企業比較や財務分析を困難にするため,各国の規制当局や専門家たちは,国際的な基準の統一に向けた努力を続けてきた.国際会計基準(IAS)は1999年に初めて登場し,その後2001年に設立された国際財務報告基準審議会(IASB)により,より広範な基準へと進化した.アメリカのUS GAAP――一般に認められた会計原則――は長い間支配的な存在であったが,2005年にはEUが企業に対してIAS/IFRSの採用を義務化し,国際的な会計基準の重要性が急速に高まった.この動きは,規制の変化にとどまらず,世界中の企業活動における透明性の向上を目的としたものである.
本書の構成は,財務報告基準の理解を深めるために非常に合理的であり,具体的な基準ごとに詳細な解説がなされている点が特徴である.最初に登場する財務諸表の表示(IAS 1)では,企業がどのように財務情報を開示するべきかが説明されており,企業の財務健全性を評価するために必要な基礎知識が提供されている.また,棚卸資産(IAS 2)やキャッシュ・フロー計算書(IAS 7)では,企業の資産やキャッシュの流れを正確に報告するための方法が示されている.これらの基準は,投資家や経営者が企業の実態を把握するために非常に重要な情報源となる.実際の企業が会計基準をどのように適用しているのかについて触れよう.たとえば,フォルクスワーゲンは2015年,排ガス不正問題で大きなスキャンダルを引き起こしたが,この問題の背後には会計基準の適用方法と情報開示に対する企業の姿勢も関わっていた.
IFRSにおいては,企業が不正や法的リスクに関する情報を財務諸表にどのように開示するかが重要となる.フォルクスワーゲンがどのように会計処理を行ったかが問題視され,その後の対応においてIFRS基準の重要性が再認識された.この事例は,会計基準が単なる数値の羅列にとどまらず,企業の信頼性や法的責任に直結していることを物語っている.IFRS 3「企業結合」についても,合併や買収がどのように会計処理されるかに関する複雑な規定が存在する.この基準では,企業結合を行った際の評価方法や取得原価の算定方法などの指針は詳細である.このような事例は,会計基準が経済活動に与える影響を実感させる.本書では,演習問題を通じて実際の会計処理にどう適用するかを考えさせられる場面が多く,読者にとって理解を深める助けとなる.とはいえ,本書にはいくつかの課題も存在する.
まず,IASおよびIFRSの基準はその数が多く,また内容も非常に詳細であるため,すべてを覚えこむことは容易ではない.基準間の相違点や適用シーンを正確に理解するためには,さらに深い掘り下げが必要である.たとえば,IAS 16「有形固定資産」では,資産の評価方法に関する細かな規定があり,企業の経営戦略によって資産をどのように管理するかが大きな違いを生むことになる.こうした規定の違いを理解するためには,実際に企業がどのようにこれらの基準を活用しているのかという事例を学ぶことが効果的である.また,IFRSは国際的な基準であるため,各国の規制や税制により微調整が加えられることもある.アメリカのUS GAAPでは一部異なる規定が存在し,これが今後IFRSと統合される過程での混乱を生む可能性もある.このような点も含めて,会計基準の動向を常に追い続けることが重要である.
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原題: テキスト国際会計基準 新訂第2版
著者: 桜井久勝〔編〕
ISBN: 4561352368
© 2024 白桃書房