■「大魔神」安田公義

大魔神 [Blu-ray]

 戦国の頃,丹波・花房領.この山には魔神を封じた巨大な武神像がまつられており,領内に災いある時は防いでくれるという伝説があった.左馬之助ら悪の勢力が栄える一方,領民たちは困窮をきわめていたが,少女・小笹の祈りに応えて武神像に魔神が乗り移り,大魔神が誕生!大魔神は城下へ暴れ込み,すさまじい復讐をはじめる….

 国時代,丹波の国.下剋上によって主を謀殺し悪政を敷く悪家老から逃れ,遺児である忠文と小笹の二人は,巫女信夫の手引きで魔神伝説の残る山へ隠遁する.この地では,武神像を魔神封じの神として崇める信仰があり,領内の平和を祈念する象徴として機能していた.時が経つにつれ,忠文と小笹は成長するが,悪家老の圧政はさらに苛烈を極め,領民たちの生活は窮乏の一途をたどる.ある日,家老は武神像を破壊するよう命じ,その額に巨大な金釘が打ち込まれた瞬間,大地が裂け雷鳴が轟き,恐ろしい形相の大魔神が姿を現した.本作は,ユダヤの伝承「ゴーレム」に着想を得つつ,柳田國男の民俗学的思想を取り入れた時代劇と特撮劇の融合作品である.製作予算は1億円,興行収入も1億円を達成したが,当時の企画副部長奥田久司によると利益はほとんど残らず,苦労に見合う結果ではなかったという.企画の出発点となったのは1965年の企画会議である.チェコスロバキア映画「巨人ゴーレム」(1936)からヒントを得て,特撮技術を活用した作品を目指すことが決定された.

 当初の題名は「大魔神現わる」であり,作中の登場人物名も奥田によって命名された.特撮監督の黒田義之は,画面上のリアリズムを考慮し,大魔神の身長を15尺(約4.5メートル)に設定し,2体の着ぐるみを製作.手足のパーツやミニチュアも用意された.撮影技術において,本作は日本初の大規模ブルーバック合成を採用している.京都撮影所に導入されたライトスクリーンは当時の価格で約1,000万円という巨額の投資がなされ,合成画面の品質向上に寄与した.森田富士郎撮影監督は,本編と特撮の両方を担当し,リアリティを追求する姿勢で臨んだ.森田は本作で新人カメラマン対象の三浦賞を受賞している.大魔神の造形は,ウルトラシリーズ――「ウルトラQ」「ウルトラマン」「ウルトラセブン」――で知られる高山良策が担当し,武人埴輪をモデルにしたデザインは,古代日本の偶像崇拝を現代に蘇らせた.大魔神の表情の変化や細部のディテール(割れた顎)には金剛力士像やカーク・ダグラス(Kirk Douglas)の面影である.

 大魔神は,日本人の精神文化の中核に触れる神仏信仰や自然崇拝を想起させ,怒りに満ちた恐ろしい姿は迫力に満ち,超越的存在として描かれている.特筆すべきは橋本力が演じた大魔神の演技である.特撮監督から「神様なので瞬きしないでほしい」と指示を受け,橋本は瞬きをせず,血走った眼が観客に強烈な印象を与えた.粉塵が舞う過酷な環境下では,目のケアには茶を用いるという苦労もあった.また,伊福部昭の作曲したテーマ曲は,三音階構成で神秘性と重厚感を併せ持ち,独特の世界観を音楽面から支えている.このように,特撮と時代劇を高いレベルで融合させた点が評価される本作のテーマは,人間の傲慢に対する神の鉄槌である.戦国時代の下剋上を背景に,悪政や搾取に苦しむ民衆の姿を通じて,因果応報の物語が紡がれる.善悪を超越し怒りとともに降臨する大魔神は,人間の小賢しい知恵や理性を粉砕し,圧倒的な霊力で神罰を下す.

 時代劇の伝統と特撮技術の融合は,大映京都撮影所のスタッフの情熱と技術力の結晶であった.本作は,わずか1年で「大魔神怒る」(1966),「大魔神逆襲」(1966)と合わせて三部作が製作され,採算上の理由でその後ぱったりと続編が途絶えた.特撮映画は,戦後日本の復興を背景に生まれた作品群であり,1950年代から1960年代初頭の戦後のトラウマや社会的な問題を反映していた.1970年代に入ると,高度経済成長期に突入し,戦争や復興といったテーマは薄れ,より現代的な問題を反映した映画が求められるようになる.それにより,大映は1960年代後半から経営的に厳しい状況に直面した.邦画全体が1970年代アメリカ映画や新たなジャンルの映画に押され,特に特撮映画や怪獣映画の需要は低迷する.大魔神は絶対的な権威者であるがゆえに,一方でそのキャラクターに新たな成長や変化を加えるのが非常に難しく,シリーズ化に不可欠な新機軸を生み出すことができなかったのである.

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原題: 大魔神

監督: 安田公義

84分/日本/1966年

© 1966 角川映画