| 舞台は1896年の東アフリカ.そこでは2頭の人食いライオンが暴れまわり,鉄道建設を中断せざるを得なくなっていた.2頭は行動を共にし,人間も火も恐れない.そのうえ奴らは,空腹のためではなく楽しみのために人間を襲う.そして人間が仕掛けた罠を,まるで予知能力があるかのようにかわしてしまうのだ.高名なハンター,レミントンと,鉄道建設技師パターソンが,この手のつけられない怪物に挑む…. |
ツァボの人食いライオン(Tsavo Man-Eaters)は,19世紀末アフリカで起きた最悪の獣害事件である.1898年3月から12月にかけて,イギリス領東アフリカ(現在のケニア)で,ウガンダ鉄道のツァボ川架橋建設現場を襲撃した2頭の雄ライオンが,少なくとも28名の労働者を食い殺した.鉄道建設はイギリスがアフリカの資源搾取と支配強化を目的に進めていたアフリカ分割の一環であり,インド人労働者を含む多民族が過酷な労働を強いられる状況にあった.人間の気配を嗅ぎつけ現れた2頭のライオンは,労働者たちから"シャイタニ"(夜の悪魔)と呼ばれ,恐怖と混乱を引き起こした.ライオンの襲撃は夜間だけでなく昼間にも及び,労働者たちは作業を拒否する事態に陥った.ライオンの行動は計画性を持つかのように見え,通常の捕食行動を超えた知性があるとさえ信じられた.現場の責任者ジョン・ヘンリー・パターソン大佐(John Henry Patterson)は,罠を設置したり,夜間に待ち伏せを行ったりするなど,ライオンの駆除に挑み,最終的には2頭を射殺することに成功する.
パターソンの対応は現地の労働者に新たな恐怖を植え付けた面もあった.労働者の中で一部の者は,ライオンの怨霊が戻ってくると信じて逃亡した.事件の背景には,植民地支配の矛盾と自然界の脅威が複雑に絡み合っている.イギリスの植民地政策の一環として進められたウガンダ鉄道は人類の勝利の象徴とされたが,ツァボの事件は自然の力が人間の計画をどれほど脅かすものかを如実に示した.解剖学的な所見によれば,剥製として保存されたライオンの一頭は深刻な歯の損傷を抱えており,これが原因で大型の動物を狩る能力を失い,代わりに人間を襲った可能性が高い.当時のツァボ地域では,狩猟や環境破壊により通常の獲物となる草食動物が減少しており,これがライオンの行動を変容させた要因と考えられる.一方で,もう一頭のライオンには健康上の問題が見られず,人間を獲物として選んだ理由については未だに議論が続いている.ライオンが人肉を好むようになったのは,病気が一因だったかもしれない.牛疫の流行で,スイギュウやレイヨウなど通常の獲物の多くが死滅した一方,コレラの流行で,その地域には浅い墓穴が多数残り,歯の損傷の問題と相まって,死肉は格好の食料だった.
労働者たちは襲撃を防ぐために火を焚き,大きな柵(ボマ)を設置したが,ライオンはこれを巧妙に回避して襲撃を続けたという.ある夜,パターソンがライオンをおびき寄せるため自ら罠の中央に寝ており,ライオンがわずか数メートルのところまで接近したが,突如として消え去ったという話が記録されている.これによりライオンの超自然的な力という噂が広まった.本作では2頭をゴースト(幽霊)とダークネス(暗黒)と名付け,人間の理解を超えた存在として描写した.パターソンの著書"The Man-Eaters of Tsavo"では,事件の詳細だけでなく,当時の植民地社会の人種的緊張や宗教的葛藤についても触れられている.労働者たちは多民族で構成されており,インド人,アフリカ人,イスラム教徒,ヒンズー教徒などが入り混った環境にあった.人食いライオンの脅威は一時的に彼らを団結させたが,襲撃が続くにつれ恐怖が分断を引き起こす結果となったのである.ツァボの事件は,自然の脅威と人間社会の複雑な相互作用を示す恐怖譚であり,現在も多くの研究や作品のテーマとして取り上げられている.
ゴーストとダークネスを狩るためのライフルは,口径.577-.450 Martini-Henry Mk. III (1881-1888).歴史的には,1898年まで英国軍は.303ブリティッシュのリー・エンフィールド・ボルトアクションライフルを使用していた.Martini-Henry Mk. IIIは黒色火薬ライフルで,旧式に分類されていた.このライフルは余剰銃市場で大量かつ安価に入手できた.強力な弾丸――.577/.450 Martini-Henry――は,ライオンを含む猛獣に対して効果的であった.架空の凄腕ハンター,レミントン役は当初ショーン・コネリー(Sean Connery)とアンソニー・ホプキンス(Anthony Hopkins)にオファーされていたが,両者とも辞退した.当初プロデューサーとして雇われたマイケル・ダグラス(Michael Douglas)が自らこの役を演じることを決め,プロデューサーらはジェラール・ドパルデュー(Gérard Depardieu)に依頼することを検討していた.ツァボ川に橋が建設された場所は現在,2頭のライオンにちなんで「マンイーターズ・ジャンクション」と呼ばれている.ケニアのツァボ東国立公園にあり,ナイロビの南東約200マイル(300キロ)にある.
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原題: THE GHOST AND THE DARKNESS
監督: スティーヴン・ホプキンス
110分/アメリカ/1996年
© 1996 Paramount Pictures
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