| 1960年代半ばの夏,青年アトス・マニャーニは北イタリアのタラという小さな町を訪れる.彼は同地で1936年にムッソリーニを暗殺しようとしてファシストに殺され,その後町の英雄として崇められた男の息子であった.父の死の真相を知るために,彼は町の人たちを尋ね歩くのだが…. |
歴史の欺瞞は個人を翻弄し,いかにも複雑で捉えどころがない.脚本はホルヘ・ルイス・ボルヘス(Jorge Luis Borges)短編『裏切り者と英雄のテーマ』に基づいている.反ファシスト殉教者の息子が,同名の父親の故郷を旅し,父親の過去の秘密を暴いていく物語である.映画史学者ロバート・P・コルカー(Robert P. Kolker)は,本作をファシストの修辞的行動における政治的影響を描いた映画と位置づけ,ベルナルド・ベルトルッチ(Bernardo Bertolucci)の最もモダニズムな作品であり,距離ではなく同一化を基盤とするモダニズムと結論づけた.ボルヘスのわずか2ページの短編は,19世紀アイルランドで抑圧されたフェニアン運動の英雄が劇場で暗殺されるという話だ.
歴史学者がこの事件を調査するうちに,英雄が実は裏切り者であり,名誉を守るために自ら殉教を選んだことが明らかになる.そして,シェイクスピア劇のように計画されたこの死が国家神話として語り継がれる.真実を知った学者は,歴史の幻想を守るため沈黙することを選び,結局は自身も運命の歯車に絡め取られていく.ベルトルッチは,原作の精神を継承しつつ,大胆な変更を加えている.舞台は戦後イタリアへ移され,主人公は歴史学者ではなく英雄の息子――父と瓜二つの外見,同じ年齢,同じ名前――となって,精神分析的なアイデンティティ危機を内包した物語へと変貌させた.町の住民たちは,息子を見て蘇った反ファシストの英雄として扱い,それぞれの思惑で彼を利用しようとする.
息子の周囲には,過去と現在が絡み合うような映像が積み重ねられ,フラッシュバックの演出で時空が歪んでいるかのような錯覚を観客に与える.父親と息子,町の住民たちも過去と現在で同じ俳優が演じている.この手法により,現在と過去が溶け合い,記憶が改竄される様子が視覚的に強調される.時間が止まった町で,息子は次第に父の運命をなぞることを強いられ,逃れられない運命の渦へと巻き込まれていく.クライマックスの舞台はオペラ劇場であり,ジュゼッペ・ヴェルディ(Giuseppe Verdi)《リゴレット》が上演される夜に父は暗殺された.ついに真実を知った息子がこの運命から逃れられるかどうかは曖昧にされる.映画のラストでは,町そのものが幻想なのか,それとも舞台装置なのかが問い直され,「ああ,呪いだ!」という《リゴレット》の終幕の叫びと重なる.
本作は,1970年という時代の文化的混沌を映し出す作品でもある.セルジオ・レオーネ(Sergio Leone)「ウエスタン」(1968)の共同原案や,ミケランジェロ・アントニオーニ(Michelangelo Antonioni),ジョルジョ・デ・キリコ(Giorgio de Chirico)の美的感覚の影響も感じられ,オープニングクレジットにはアントニオ・リガブーエ(Antonio Ligabue)の絵画がいくつか示される.ベルトルッチは同時期に「暗殺の森」(1970)も発表しており,ファシズムの遺産を追求する映像作家としての姿勢を鮮明にした.両作品は,光で書く(Writing with Light)を公称した撮影監督ヴィットリオ・ストラーロ(Vittorio Storaro)により,政治のスペクタクルを描く幻想的な映像世界が創出されている.
++++++++++++++++++++++++++++++
原題: STRATEGIA DEL RAGNO
監督: ベルナルド・ベルトルッチ
99分/イタリア/1970年
© 1970 RAI Radiotelevisione Italiana, Red Film
![暗殺のオペラ 2K修復版 [Blu-ray] 暗殺のオペラ 2K修復版 [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/51KYd7vog-L._SL500_.jpg)