| パラドクス,謎なぞ,ダブレット,アナグラム,アクロスティック,タングラム,記憶術,初等幾何,暗号法,オリガミ,論理ゲーム‥‥『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』のほか,『もつれっ話』『枕頭問題集』などの作品から精選した頭の体操のかずかず.数学者・論理学者のドジソン先生=キャロルが,パズル好きのすべての人々のために編み出した,数学と言葉あそびにまたがる楽問・難問・奇問集――. |
ルイス・キャロルことチャールズ・ラトウィッジ・ドジソン(Charles Lutwidge Dodgson)の文学的業績は,数学的思考や論理と密接に結びついている.ドジソンは数学者としても評価されており,数理知識を世界観に数多く反映させた.『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』には,論理パズルや言葉遊びが頻繁に登場し,それらは数学的な思考の発露である.無意味な言葉の中にリズムと構造が組み込まれ,まるで数学の公式のように精密に計算された「ジャバウォックの詩」など,遊び心と論理的な知性の融合は,ドジソンの文学に特有の魅力を与えている.オックスフォード大学クライスト・チャーチ・カレッジに入学したドジソンは,1852年に数学の修練で一級優等を取得し,父の古い友人である主教エドワード・ピュージー(Edward Pusey)から奨学生に推薦された.
1854年には一級優等を取得して卒業,クライスト・チャーチに留まり勉学と教育に励んだが,勉強に集中できないと自ら認め,奨学金試験に失敗した.数学者としての能力は認められ,1855年にはクライスト・チャーチ数学講師の職を得て,26年間その職に留まった.数学の分野において,ドジソンは幾何学,線型代数,行列代数,数理論理学,娯楽数学の分野で研究し,本名で10冊以上の本を出版している.線型代数におけるルーシェ=カペリ定理の最初の証明を提示し,確率や選挙制度(ドジソン法)にも新しいアイデアを導入した.記号論理学の分野では,20世紀後半に再評価され,マーティン・ガードナー(Martin Gardner),ウィリアム・ウォーレン・バートリー(William Warren Bartley)による死後出版の影響で,新たな関心を集めた.
『不思議の国のアリス』では,登場人物たちがしばしば数学的な概念を体現する.帽子屋と三月ウサギとのお茶会の場面は,無限に続く数列を象徴しており,チェシャ猫の消失は極限の概念と解釈することができるだろう.『鏡の国のアリス』では,チェスが物語全体の構造を決定し,駒の動きが登場人物の行動に直接影響を与えている.これらの要素は,ストーリーテリングの技巧ではなく,数学的発想の応用例として興味深いものだ.ドジソンは暗号やパズルにも関心を寄せ,当時の数学者や論理学者たちと活発に議論を交わしていた.考案した記号論理学ゲームは,後のブール代数やコンピュータサイエンスにも通じる先駆的な試みであり,現代においてもその価値が再評価されている.ドジソンはユークリッド幾何学に強い関心を抱きながらも,伝統的な数学者ではなく,問題に数学的・論理的な解決策を常に適用する実践者であった.
発明したキャロル図は,自己相似性を持つためベン図よりも描きやすく,分類法の汎用の高さから,様々に引用され続けている.しかし,「アリス」シリーズの著者として広く認知されたため,児童文学作家としての評価が先行し,ドジソンの論理学の研究は,真剣に検討されることは少なかった.文学性が数学的評価の障壁となったことは否めないが,論理的問題の解決アプローチ,ダイアグラム法・ツリー法の発明は,現代の論理学にも重要な貢献を果たしている.また郵便ゲーム――プレイヤーが制約のある状況下で最適なメッセージの配達経路を考える――は,現代のネットワーク理論にも通じる先進的なアイデアを含み,今日のインターネット通信プロトコルの基礎概念にも似ている.こうした視点からも,ドジソンは純粋な数学者にとどまらず,実用的な問題解決者であったことが解る.ドジソンの業績は,文学,数学,論理学をまたぐ多彩なものであった.
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Title: LOGICS IN WONDERLAND
Author: Lewis Carroll
ISBN: 4480089233
© 2005 筑摩書房
