■「ラ・ジュテ」クリス・マルケル

ラ・ジュテ デジタル修復版 [Blu-ray]

 第三次世界大戦後の廃墟と化したパリ.放射能によって地上は汚染され,支配者たちは"過去"と"未来"に救済を求めた.彼らは地下世界に生きる捕虜の中から主人公を選び,危険な実験で彼を過去に送り込もうとする.少年時代に空港の送迎台(=ラ・ジュテ)で見た女のイメージの虜となっているこの男ならば,実験に耐えうると判断されたのだ.果たして,過去に送り込まれた男は女と再会するが….

 ランスの芸術運動左岸派と結びつき,核戦争後のタイムトラベル実験を描く時間ループのSF短編である.ほぼ静止写真の集合として構成されるため,唯一の連続的な要素は音である.ナレーション,オーケストラスコア,効果音が最小限に配置され,映画のリズムを形成する.物語の強度を高め,映像と音が同期することで連続性が生み出される.時間の流れと動きを錯覚させるサウンド,カットインやフェードアウトが巧みに用いられ,終末的な世界観に不安な雰囲気を加えている.フォトモンタージュの手法によりリズムが異なる映像が再生され,セリフはほぼ存在せず,ナレーションのみで状況が語られる.物語は,第三次世界大戦後の荒廃した未来から始まる.

 生存者たちは地下に避難し,科学者たちは過去へと人間を送り込み,現在の危機を解決する手段を探ろうとする.しかし,ほとんどの被験者はタイムトラベルの精神的衝撃に耐えられず,死亡してしまう.やがて,ある捕虜が実験に耐え得る存在として選ばれる.彼は幼少期にオルリー空港で目撃した謎の男の死と,美しい女性の記憶に取り憑かれており,その強いイメージが時間移動の安定した到達点になると科学者たちは考える.実験の結果,捕虜の男は過去に到達し,女性と出会う.幼少期の記憶が次第に特別なものへと変化し,彼はその時間に留まりたいと願う.しかし,未来の科学者たちは,任務が終われば処分される運命にあることも彼に告げる.

 自らが実験材料であることを悟った彼は,過去に戻ることを望む.オルリー空港で女性と再会するが,その瞬間に幼少期に目撃した男の死の真相を知ることになる.時間と記憶の知覚を操作し,現実そのものの再定義を試みる物語はアルフレッド・ヒッチコック(Alfred Hitchcock)の「めまい」(1958)にインスパイアされ,ジャン・ヴィゴ賞(短編映画部門)を受賞した.映画史においては,その実験的手法と詩的な映像表現により,高い評価を受けている.Criterion Collectionのブルーレイ版では,高解像度でのリマスターにより,写真の質感とフィルムの粒状感が生かされ,視覚的な没入感を高めている.英語とフランス語の両方で収録されたナレーションは,あえてクリアではなく,時代を超えた記録のように響く.

 未来の視点から振り返られた歴史の断片であるかのような錯覚を与え,時間,記憶,映像という映画の本質を問う比類なき傑作である.本作の影響は広範に及び,デヴィッド・ボウイ(David Bowie)《Jump They Say》のMV,「わたしを離さないで」(2010)にもその痕跡が見られる.全編は光学的にプリントされた静止写真で構成されるが,唯一の動画部分は,女性が眠りから目覚める一瞬のショットである.静止画はペンタックス・スポットマティックで撮影され,動画部分は35mmのアリフレックスで撮影された.未来から来た4人の静止画は,写真家ロバート・フリーマン(Robert Freeman)が後に撮影したビートルズ(The Beatles)のポートレートと言い逃れができないほど酷似している.このポートレートは1963年の《With the Beatles》のアルバムカバーとして使われた.

++++++++++++++++++++++++++++++

原題: LA JETEE

監督: クリス・マルケル

29分/フランス/1962年

© 1962 Argos Films S.A.