| 「NHKの公共性,客観性を保つために受信料は必要だ」‥‥日本人の多くはこんなプロパガンダを信じ込まされている.しかし,世界を見れば広告収入で運営されている公共放送は数多い.実は,戦後の受信料とは,GHQの意向に反して,吉田茂総理と通信官僚らがNHK支配の道具として存続させたものだ.放送法制定に携わったGHQ側の貴重な証言を盛り込みながら,巨大メディアのタブーに斬りこむ刺激的論考――. |
英国のBBCに起こることはNHKにも起こるという命題は,公共放送が直面する課題を示している.NHKが「公共放送」であることを根拠に受信料制度を維持しようとするのは,歴史的経緯を踏まえれば,理にかなっているとは言い難い.BBCが英国政府と対立する場面があるのとは対照的に,NHKは政府批判を抑制する傾向があることは否定できない.公共放送だからこそ不偏不党であるという主張を譲らないNHKは,受信料を公的負担金のように扱うが,実際には国会承認のもとで予算が決定される.NHKスペシャルなどの番組においても,政治的バランスに配慮しすぎるあまり,鋭い批判を避ける傾向がある.BBCは近年,受信料制度の是非を巡る議論が激化し,政府からの圧力や財政的困難に直面しているのと同様,NHKも受信料制度に関する批判にさらされている.
電波法に基づき,私設無線電話施設者としての位置づけを持つNHKは,日本の電波行政において特異な立場にある.放送法第64条と第126条により,NHKは国とは独立した法人であることを示している一方,財源の大部分が受信料であることを考えれば,完全に独立しているとは言い難い.むしろ,この制度がNHKの独立性を制約する要因となっている可能性もある.GHQが戦後日本に民主的な放送制度を導入しようとした際,受信料制度は公共放送の独立性を担保する手段として構想された.しかし,吉田茂総理と官僚たちはNHKを政府の影響下に置くことを画策し,結果的に現在の受信料制度が形成されたと見ることができる.NHKの予算が国会の承認を必要とするのも,吉田の方針が色濃く反映されていた.
GHQ側の証言によれば,当初は英国のBBCのような独立した公共放送機関を目指していたが,日本政府の抵抗により実現しなかったという.戦後の電波行政においては,電波監理委員会の廃止が大きな転機となった.本来,電波監理委員会は放送の独立性を守るために設置されたが,1952年に政府の主導で廃止され,放送行政は郵政省(現・総務省)の管轄となった.これにより,NHKを含む放送局は政府の影響をより強く受けることとなった.この流れの中で,NHKの受信料制度は政府の意向を反映しつつ維持され,受信料制度を巡る法的問題も存在する.最高裁判所はNHK受信契約を合憲と判断しているが,その判決の論理には疑問が残る.放送法第32条が「契約の自由」と矛盾する点は重要である.
電気やガスと異なり,NHKは視聴時間や利用の有無にかかわらず一律の料金を課す.これは対価説に反し,特定の情報へのアクセスを事実上強制していることになるはずだ.こうした問題を受け,近年ではメディア公社設立構想も浮上している.公共放送を広告収入や税金で運営する方法は世界的に一般的であり,受信料制度に固執する必要はない.ドイツの公共放送ARD/ZDFは受信料方式を採用しているが,フランスの公共放送は近年,受信料を廃止し,税金での運営に移行した.NHKの改革も,このような国際的な動向を踏まえて議論されるべきである.NHKが真に公共放送としての役割を果たすには,政府からの独立性を高めると同時に,視聴者の負担を合理化する必要がある.オンライン配信の普及により,従来のテレビ受信を前提とした受信料制度は時代錯誤になりつつある.
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原題: NHK受信料の研究
著者: 有馬哲夫
ISBN: 4106109840
© 2023 新潮社
