■「ある詩人への旅路」ハビエル・コルクエラ

 ペルーの最も重要な詩人の1人,ハビエル・エローは,1963年,21歳の若さで殺された.姪のアリアルカは,ある日ハビエルのトランクを発見する.そこには,彼女が知らなかった歴史があった.手紙や詩を通じて,ハビエル・エローの人生の道のりを追う….

 ルーの詩人でありながらゲリラ戦士として21歳の若さで銃弾に倒れたハビエル・エロー(Javier Heraud)を描いたドキュメンタリーである.エローの姪アリアルカ・オテロ(Ariarca Otero)が彼の足跡を辿る旅を軸に構成されている.アリアルカは家族の書簡を紐解き,叔母やハバナ大学時代のエローの友人と対話を重ねながら,謎めいた詩人の実像に迫る.監督ハビエル・コルクエラ(Javier Corcuera)は,詩集"El río""El viaje"の朗読を通じて,エローの詩と共鳴するような川の映像や自然音を巧みに取り入れ,視聴覚からエローの詩世界を再現し,人生の軌跡も丁寧に描かれる.

 パリやキューバへの旅,ペルーにおける社会正義の追求,それが彼を共産主義とゲリラ活動へと導いた過程が語られる.しかし,映画の主眼はあくまで彼の若き理想主義に置かれ,暴力との関わりには深く踏み込まない.エローが武器を掲げた姿を捉えたネガフィルムを保管する女性が登場し,彼女は自分の死後,これを破棄するつもりだと語る.なぜなら,政治活動がエローの詩人としての本質を損なうことを避けたいからである.コルクエラの手によって,詩人の足跡が映像として記録され,彼が築いた友情や詩的遺産が観客に伝えられる.エローの姪アリアルカの個人的ルーツ探訪と公的な歴史が交差する過程でもある.

 アリアルカの素朴な質問によって,証言者たちはそれぞれのエロー像を語り,人物像がより多面的に浮かび上がる.証言の中には,監督の父でもある詩人アルトゥーロ・コルクエラ(Arturo Corcuera)も名を連ねる.彼らの言葉を通じて,エローの学生時代から革命思想へと傾倒していく変遷が明らかになる.証言の数々は,やや冗長であり,映画のリズムを停滞させる場面もあるが,その場面においてもユーモアのあるエピソードが語られ,単調さを緩和する工夫が施されている.証言の積み重ね以外に,写真,手紙などの私物,未公開の映像資料といったアーカイブも活用されている.

 これらの素材により,エローの内省的な思索を浮かび上がらせ,思想と葛藤が同時代性の価値を持つことを伝えている.映像表現においても,広大な自然の風景を捉えるワイドショット,アリアルカと証言者たちの対話を記録するミディアムショット,遺品を映し出すクローズアップ,手紙の文字を強調する極端なクローズアップなど,多彩な画角を駆使して物語を紡ぐ.詩の朗読をナレーションとして挿入し,その詩が流れる川の映像と重なることで,エローの言葉に生命を吹き込む.しかし頻度が多すぎて煩わしい印象を与えるのが残念.本作において,エローは「ペルーのランボー」として位置づけられ,短くも濃密な詩人の生涯を映像として刻む試みである.

(字幕版)ある詩人への旅路

(字幕版)ある詩人への旅路

  • アリアルカ・オテロ
Amazon

++++++++++++++++++++++++++++++

原題: EL VIAJE DE JAVIER HERAUD

監督: ハビエル・コルクエラ

96分/ペルー=スペイン/2019年

© 2019 Quechua Films Perú S.R.L./Nakuy S.A.C.