| 古代から文字によって記録されてきたもの,粘土板,巻物,書籍,住民の公的な記録,手稿,手紙など,その土地に住む人々の文化的な記録は,歴史上,故意にあるいは忘れ去られることで幾度も破壊が起きてきたことを説明しつつ,その過程でライブラリアンやアーキビストがどのように戦ってきたかを記す…. |
知識の保存と破壊の歴史を,壮大かつ緻密に描き出した一冊である.全360ページという短い分量ながら,人類3000年にわたる知識の運命を凝縮する.図書館と文書館は,社会秩序や文化的アイデンティティの知識を蓄積し,それを守ることで文明の存続と発展に繋げてきた.本書は,著者自身の個人的な経験から始まる.ある日,妻と共に家族の遺品整理をしていた.手紙や日記を保存すべきか破棄するかという判断に迫られた時,こう気づく.こうした決断は日常的で取るに足らないものだが,故人が公人であった場合,その影響は計り知れない.ジョージ・ゴードン・バイロン(George Gordon Byron)回想録を出版社ジョン・マレーが焼却したこと,詩人フィリップ・ラーキン(Philip Arthur Larkin)の日記を秘書が一枚ずつシュレッダーにかけたことなどが思い起こされる.
著者は,古代アッシリア帝国における図書館から考察を始める.この図書館からは19世紀に2万8,000枚もの粘土板が発掘されたが,これらの粘土板は人類最古の文書記録の一つであり,知識を書き留める行為の始まりを示す証拠と考えられている.古代において知識を守ることは,すでに文化の重要な要素であった.さらに時代と大陸をまたぎ,知識の運命を辿る.ジョン・リーランド(John Leland)は16世紀イングランドを旅し,ヘンリー8世(Henry VIII)による修道院図書館の破壊を記録した.1914年ドイツ軍がベルギーのルーヴァン大学図書館を焼き払い,23万冊もの蔵書が灰となった.1992年サラエボの国立図書館がセルビア軍による砲撃で3日間燃え続け,約150万冊の書籍と文書が失われた.
ナチスによる焚書,中国の文化大革命の焚書は,知識の破壊が政治的・文化的アイデンティティの抹消と結びついているかを示す顕著な例である.1933年5月10日,ベルリンのオペラ広場で行われた焚書では,焚書リストを作成した一人が,ドイツの図書館司書ヴォルフガング・ヘルマン(Wolfgang Hermann)であったことは衝撃的である.司書とは知識を守る立場にあるはずだが,その役割が全体主義の道具となった.様々な歴史的エピソードから,本書が強調するのは,図書館や文書館が社会秩序や国家の存続に果たす役割である.アメリカ独立宣言やマグナ・カルタ,アメリカ最高裁判所の判例などが記録されていることで,市民の権利や国家の正統性が維持されている.
本書は,知識の破壊が社会秩序や国家の崩壊に直結することを静かに,しかし明確に訴える.知識を守ることを押し付けるまでもなく,知識が失われたときに何が起きるのかを歴史が証明していることを見れば,アーキビストの役割を再考せざるを得ない.現代でも,知識の破壊は続いている.イエメンのザイド派コミュニティの図書館は,知的伝統の豊かさにもかかわらず,内戦の中で破壊されつつある.イラクの国立文書館では,1968年のバース党政権成立から現代に至るまでの貴重な記録が危機に瀕していた.しかし,亡命学者カナン・マキヤ(Kanan Makiya)が命を懸けてこれらの文書を守ったことで,その多くはスタンフォード大学フーバー研究所に無事移送された.この記録が残されたことで,イラク国民はいつか自国の歴史の真相に向き合う日が来るかもしれない.
++++++++++++++++++++++++++++++
Title: BURNING THE BOOKS - A HISTORY OF KNOWLEDGE UNDER ATTACK
Author: Richard Ovenden
ISBN: 9784760154425
© 2022 柏書房
