■「砂上の法廷」コートニー・ハント

砂上の法廷 [Blu-ray]

 巨額の資金を持つ大物弁護士が自宅で殺害された.容疑者として逮捕されたのは,17歳の息子.拘留後,完全黙秘を続ける少年の弁護を引き受けたのは,敏腕弁護士ラムゼイ.何も語ろうとしない被告人をよそに開廷された裁判では,全ての証人が少年の有罪を裏付ける証言をする.その証言のわずかなほころびから,「嘘」を見破るラムゼイ.有罪確定に見えた裁判の流れが変わり始めた矢先,被告人が沈黙を破り,衝撃の告白をはじめる….

 アヌ・リーブス(Keanu Reeves)は30年以上にわたり様々なジャンルの映画に出演してきたが,理知的な佇まいがミステリー作品にはよく似合う.辣腕弁護士ラムジーが弁護を担当するのは,父親殺害の罪で告発された17歳の息子である.ラムジーにとって厄介なのは,この家族と長年の付き合いがあることであり,被告の母親とも親しい関係にある.本作は,ラムジーの個人的な背景描写を意図的に省き,裁判の過程と回想シーン挿入に重点を置いている.回想では事件当日に何が起きたのか,異なる視点やバージョンが提示される.この構成は,原題"THE WHOLE TRUTH"が示す通り真実は何かを問いかける試みであり,誰もが正直であるとは限らないという視点に基づいている.

 リーブス演じるラムジーも序盤で「真実には3つの側面がある」と述べ,芥川龍之介の短編「藪の中」のような真実の多面性を探ろうとする姿勢を明示している.脚本は真実の曖昧さというテーマを扱っている点で一定の評価に値する.しかし,描写力はその深みに達しておらず,代わりに一連のツイストに頼ることで観客の興味を引こうとする.リーブスのナレーションが頻繁に挿入されるが,作品にフィルム・ノワール的な雰囲気を与えようとした意図は理解できるものの,物語に対する過度な説明となり,結果的に作品のテンポを損ねている.レニー・ゼルウィガー(Renée Zellweger)は母親役として堅実な演技を見せているが,役の深みに欠けるため印象に残りにくい.

 逆に目立つのはググ・ンバータ=ロー(Gugu Mbatha-Raw)で,ラムジーと共に弁護を担当する野心的な弁護士役で作品に活力を提供している.脚本のニコラス・カザン(Nicholas Kazan)は「運命の逆転」(1990)でアカデミー賞脚色賞にノミネートされた実力派であるが,最終的なクレジットでは別名義"Rafael Jackson"が使われており,脚本の最終的な仕上がりに対する不満を抱いていた可能性がある.カザンは「女優フランシス」(1982)の脚本でも事実の歪曲が問題視された過去があり,本作でも現実味よりミステリーとしての見せ場を優先した結果,強引な印象を与える.最終的などんでん返しも,それほど衝撃的なものではなく,ある程度の推理力を働かせれば予測可能である.

 真実の曖昧さというテーマは法廷ミステリーとしては面白いものの,十分に掘り下げられていないため,作品としての水準は高くない.テレビドラマに近い雰囲気ではあるが,裁判シーンの撮影には丁寧さが感じられる.元々ラムジー役にはダニエル・クレイグ(Daniel Craig)がキャスティングされていたが,降板したことでリーブスに役が回ってきた.抑制された演技と線の細さでリーブスは独特の存在感を与えており,ミステリアスな弁護士に結果的に説得力を持たせることに成功している.撮影監督ジュールズ・オロフリン(Jules O'Loughlin)はArri Alexaを使用しており,法廷シーンのわずかに彩度を抑えた映像と,回想シーンの黄金色の記憶とのコントラストが視覚的に効果を発揮している.

砂上の法廷 [Blu-ray]

砂上の法廷 [Blu-ray]

  • キアヌ・リーヴス
Amazon

++++++++++++++++++++++++++++++

原題: THE WHOLE TRUTH

監督: コートニー・ハント

94分/アメリカ/2015年

© 2015 WHOLE TRUTH PRODUCTIONS, LLC.