| 世界各地でUFOの未確認目撃情報が飛び交い始める.目撃した人間の血は青色に変わり,もはや人間ではいられなくなると言う恐怖の噂が広がる.街にクリスマスソングが流れ始める頃,世界各国からUFOの飛来を告げるニュースが続々伝えられ‥‥青い血を持った人間を迫害,秘密裏に処理しようとする体制の恐怖を倉本聰のオリジナル脚本をもとに鬼才・岡本喜八がメガホンをとった力作. |
従来の日本映画が政治腐敗やヤクザの暗躍に焦点を当てていた時代,本作は世界規模の陰謀を描き,混乱の中で翻弄される人々の姿を克明に映し出した.この作品を理解する上で重要なのは,岡本喜八が戦時中に徴兵を逃れて工場勤務に従事し,多くの同級生が戦地で命を落としたという事実であろう.この体験が,岡本作品に通底する戦争や社会的抑圧への問題意識を形成している.物語は,UFOと異星人についての発表後に失踪した兵藤教授,その行方を追うテレビ記者・南一矢を中心に展開する.調査過程で南は"青い血"を持つ人々の存在を知る.彼らはUFO遭遇により血が青く変化したものの,外見や行動は通常の人間と変わらない.政府はこの青い血の人々を脅威として秘密裏に拘束し,人体実験を行っていた.
物語は,政府が青い血の人々を意図的に残し,テロリストと見せかける偽装作戦を画策しているという陰謀へと発展する.仲代達矢演じる南は,正義感を持ちながらも社会の圧力に屈し,最終的には取材を打ち切るという現実的な姿を見せる.これは岡本が繰り返し描いてきた正義の挫折というテーマと合致している.岡本は「日本のいちばん長い日」(1967),「沖縄決戦」(1971)でも個人と国家という主題を掘り下げてきたが,本作では陰謀論的色彩を強める.南が無力感を抱えながらも知ってしまった真実に苦悩する姿には,岡本自身の国家への不信感や戦争体験からのトラウマが投影されているように思われる.岡本にとって初のSF作品であり,当初は戦争映画として構想されていたという.
「パララックス・ビュー」(1974),「大統領の陰謀」(1976)といった1970年代アメリカ映画の影響を受け,政治スリラー要素を加えたSF作品へと方向転換された.岡本自身は,日本でこのジャンルは受けないかもしれないが,挑戦する価値があると述べていた.作品で象徴的に用いられる"青い血"というモチーフには複層的な意味がある.ナチス時代の純血主義を暗示し,表面的には普通に見える人々が国家によって異分子として迫害される構図は,歴史上の民族弾圧を想起させる.また,欧州貴族が自らの血統を"Blue Blood"と誇示した伝統に由来するという解釈も可能で,血統や種による分類・差別構造への批判とも読み取れる.劇中で繰り返し流れる謎のバンドThe Humanoidsの楽曲《Blue Christmas》は,エルヴィス・プレスリー(Elvis Aron Presley)の同名曲に着想を得たものだ.
クリスマスの惨劇はナチスによる「水晶の夜」(クリスタルナハト)を連想させ,歴史的迫害や冷戦下の恐怖政治を巧みに織り込んでいる.本作が製作された1970年代は,ウォーターゲート事件や世界各地でのテロ事件により陰謀論が広がった時代であった.日本国内でも安保闘争や連合赤軍事件が社会不安を高めた.本作はこうした時代背景を反映し,国家の暴走やプロパガンダの危険性を鋭く描き出している.青い血の人々がクリスマスの夜に虐殺される結末は,重い余韻を残す.公開当時は難解すぎるとして興行的には振るわなかったが,岡本が予言したように10年,20年経って評価されることとなった.冷戦終結後の1990年代,UFO陰謀論や国家の情報統制への警戒感が高まった時代に再評価が進み,作品のテーマが時代と共鳴したのである.
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原題: ブルークリスマス
監督: 岡本喜八
133分/日本/1978年
© 1978 東宝
