| ミシシッピー州の街カントンで10歳の黒人少女が二人の白人青年に暴行を受けるという事件が起った.娘の哀れな姿に心を傷めたその父カール・リー・ヘイリーは,マシンガンを持って裁判所に出向き,その青年2人を射殺してしまう.新米弁護士として働くジェイクは有能な法学生エレンの助けを借りてヘイリーの弁護を務める事になる…. |
ジョン・グリシャム(John Grisham)の処女小説を原作とした法廷ドラマであり,ジョエル・シューマカー(Joel Schumacher)の手腕が光る作品として高く評価されている.本作は人種問題,法と正義,個人の道徳的選択という複雑なテーマを,アメリカ南部を舞台に描き出している.ヘイリーの行為は法的には明らかに殺人であるが,被害者の父としての苦悩と怒りは同情と共感を呼び起こす.道徳的ジレンマが映画全体を通して緊張感を生み出し,もし自分が同じ状況に置かれたら何を選択するか,という根源的な問いを発する.本作の最大の強みの一つは,何といっても卓越した演技陣にある.
サミュエル・L・ジャクソン(Samuel L. Jackson)のヘイリー役は最も素晴らしく,復讐に駆られながらも深い絶望を内包した父親像を説得的に演じている.静かな威厳と抑制された怒りは,言葉以上に内面的葛藤を雄弁に物語っており,観る者の心に深く刻まれる.マシュー・マコノヒー(Matthew McConaughey)演じる弁護士ジェイクもまた,本作の中心的存在として光彩を放っている.当時の有名若手俳優――ブラッド・ピット,ヴァル・キルマー,ウディ・ハレルソン――を検討した結果,当時ほぼ無名だったマコノヒーを抜擢したのは原作者グリシャム自身であった.この慧眼は見事に的中し,マコノヒーは知性,誠実さ,南部特有のラフな魅力を兼ね備えた存在感ある演技を見せている.
ジェイクの内面的な成長――勝訴を目指す野心的な弁護士から,真の意味で正義を追求する人権派への変貌は,L・ジャクソンの名演と相まって,映画の核心部分を形成している.シューマカーの演出は,2時間半という長尺にもかかわらず,観客を物語に没入させ流れるような語り口を実現しており,中だるみはない.法的な正しさと道徳正しさは,しばしば対立する現実を,娯楽性を失わずに描き出した点で,適切な原作と演技陣が揃った際のシューマカーの力量を発揮した作品の一つといえるだろう.時に単純化されすぎた展開はあるものの,本作はアメリカ南部社会の抱える人種問題と法制度の複雑さを,一人の父親の怒りと悲しみを通して効果的に描き出した秀作である.
1984年,ヘルナンドのデソト郡裁判所で,グリシャムは幼い強姦被害者の悲惨な証言を目撃した.小説の着想は,12歳のマーシー・スコット(Marcie Scott),その姉で16歳のジュリー・スコット(Julie Scott)の強姦と暴行事件から得ている.グリシャムの創作と現実の事件には重大な相違がある.実際の事件では,スコット姉妹は白人で,加害者ウィリー・ハリス(Willie Harris)は黒人だった.被害者と加害者の人種の入替わりは,判決を導く弁護側の最終弁論で見事に生かされている.グリシャムは原作の完成に3年を費やし,1987年に完成させた.アメリカ南部人種問題を描いたハーパー・リー(Nelle Harper Lee)『アラバマ物語』から影響を受けたと述べている.
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原題: A TIME TO KILL
監督: ジョエル・シューマカー
150分/アメリカ/1996年
© 1996 New Regency Productions, Warner Bros
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