▼『科学と神』ノーバート・ウィーナー

科学と神―サイバネティックスと宗教 (1965年)

 新しく急速に発展している通信科学の分野は,ノーバート・ウィーナーに負うところが大きい.この分野で「サイバネティクス」という言葉を作った著者は,本書において宗教的問題に関連するサイバネティクスの主要点について考察している――.

 二次世界大戦中に防空システムの開発に関わったノーバート・ウィーナー(Norbert Wiener)は,サイバネティクス――生物と機械の制御・通信を統一的に扱う学問――を発展させた.1962年にイェール大学の講義を基に執筆され,科学・哲学・宗教部門で全米図書賞を受賞した本書は,技術と倫理の関係性について論じている.ウィーナーは本書において,機械学習,機械の自己再生産,社会における機械の位置づけという3つの主要テーマを探求している.チェッカーをプレイするコンピュータの例を用いて,機械が経験から学習し,最終的には創造者を凌駕する可能性を示した.

 洞察は,現代の人工知能研究の礎となる概念を何十年も前に予見していたことを示している.自己複製する機械についての考察は,本書の中でも目を引く部分である.ウィーナーはユダヤ伝承のゴーレム神話を引用し,神が自身の姿に似せて人間を創造した信仰,人間が自身に似せて機械を創造する現代技術の並行性を指摘する.ゴーレムという不完全な人造生命体が時に制御不能となるように,人間の創造した機械も予期せぬ方向に発展する可能性があるという警告は,今日のAI倫理の議論を先取りしているものだ.

 ウィーナーは人間のものは人間に,コンピュータのものはコンピュータにという原則を提唱し,技術発展における倫理的責任の所在を明確にすることの重要性を強調した.意思決定プロセスを機械に委ねることの危険性について彼が示した懸念は,今日のアルゴリズム依存社会において一層の説得力を持つ.また,冷戦時代のイデオロギー的硬直性や経済学における数理モデルへの過度な信頼についても批判的視点を示している.サイバネティクスの創始者としてのウィーナーの知見は,専門的知識がなくとも理解できるよう平易に綴られている.

 サイバネティックスの影響力は学術領域を超え,アイザック・アシモフ(Isaac Asimov)の示した「ロボット三原則」――人間への安全性・命令への服従・自己防衛――もまた,ウィーナーが提起した倫理的課題への一つの応答と捉えることができるだろう.情報倫理学の基盤ともなったフィードバック概念は,現代のサイバーセキュリティやインターネット・ガバナンスにも応用されている.ブラックボックス化した技術の暴走に関する警告は,科学,宗教,倫理の交差点に立つ思索的著作である.本書が投げかけた制御不能な技術への懸念は,私たちが真摯に向き合うべき現代的課題として蘇る.

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Title: GOD AND GOLEM - A COMMENT ON CERTAIN POINTS WHERE CYBERNETICS IMPINGES ON RELIGION

Author: Norbert Wiener

ISBN: -

© 1965 みすず書房