■「Dolls ドールズ」北野武

Dolls[ドールズ] [Blu-ray]

 悲恋の物語「冥途の飛脚」の主人公,梅川と忠兵衛.何かをささやくような二体の人形の視線の先に――一本の赤い紐につながれ,あてもなくさまよう男と女.迫り来る死期を感じ取った老境のヤクザと,彼をひたすら待ち続けるひとりの女.事故で人気の絶頂から転落したアイドルと,それでも彼女を慕い続ける孤独な青年.三つの物語が交錯し,四季折々の愛の物語を紡ぎだす….

 失とマゾヒズムを秘めた3つの悲恋物語.文楽「冥土の飛脚」が序曲と終曲を飾り,心中の美学が愛の気高さを強調している.北野作品の暴力描写は鳴りを潜めているが,いかなる犠牲をもってしても贖うことのできない罪,容赦なく訪れる突発的な死など,やはり本質は暴力的な帰結とみなければならない.沈黙,間にこだわっており,能や文楽に通じる日本的な"余白"の美学を意識した演出である.

 登場人物の感情は直接語られず,風景や視線,距離感といった非言語的な要素によって表現されている."つながり乞食"と化した男女,死を控えたヤクザの親分の逢瀬,左目を失い芸能界引退を余儀なくされた少女と熱狂的ファンの邂逅――脈絡もない物語は,山本耀司の印象的な意匠で装いがなされ,とりわけ「深紅」の色合いが作品のテーマカラーというべき象徴性をもつ.

 耽美性は各要素の造詣,形態と色彩の美に求められ,物語の整合性よりも美的感覚が優先されているが,本作には近松門左衛門の文楽や谷崎潤一郎『春琴抄』に依拠した構成が明確に見てとれる.しかし,耽美に徹することのできない弱さが,作品に不安定さをもたらしていることは否めない.日本国内では賛否が分かれたものの,ヨーロッパでは非常に高い評価を受けた.カンヌやヴェネチアの常連となっていた北野の作風が,本作では詩的な映像詩と捉えられ,時間と感情の流れを絵画的に捉える手法が称賛された.

Dolls[ドールズ] [Blu-ray]

Dolls[ドールズ] [Blu-ray]

  • バンダイビジュアル
Amazon

++++++++++++++++++++++++++++++

原題: DOLLS

監督: 北野武

113分/日本/2002年

© 2002 バンダイビジュアル=TOKYO FM=テレビ東京=オフィス北野