| 世界No.1ハッカーと呼ばれたスタンリーのもとに舞い込んだ,巨額金強奪の話.かつて麻薬取締役局の極秘作戦"ソードフィッシュ"によって生じ,現在も政府がネットの裏側に隠し持つ95億ドルを,わずか60秒で奪う!話を持ちかけてきたガブリエルの逆らい難い脅威に,スタンリーは予測不能の「錯覚=ミスディレクション」の罠にはまっていく…. |
ハリウッドの問題は,クソみたいな映画ばかり作ることだ――辛辣な台詞で幕を開け,誇張されたIT描写のサイバー・スリラーとして位置づけられる.2001年という時代は,サイバー犯罪と国家安全保障,情報戦の関係性が大きく変容した転換点だった.公開からわずか数か月後に発生した9.11テロは,見えないネットワークに潜むテロリストという新たな敵像を生み出すことになる.本作は,旧来の軍事国家や麻薬カルテルに代わり,非正規の金融網を使い,政府の裏金を狙うハッカーと情報テロリストを敵として描くことで,この時代の過渡期的イメージを先取りしていた.
核心はブラックオプスの資金流用,それに対抗するための"非合法な正義"にある.これは冷戦後の国家暴力の正当化が,インターネット時代においてどう変容するかを示すものだ.ジョン・トラヴォルタ(John Travolta)演じるガブリエルは,国家安全保障局の"影"に連なる秩序の破壊と維持を両立するパラドクス的存在として描かれる.この設定は,9.11以降にアメリカ政府がとった監視,盗聴,暗殺といった戦略と奇妙に呼応している.本作のサイバーテロは極めて映画的で非現実的である.ヒュー・ジャックマン(Hugh Jackman)演じるハッカーが銃を突きつけられながら60秒でNSAのセキュリティを破る場面は,ハッキング=魔術的行為という幻想を強化する.対照的に,2001年以降のサイバーテロ映画は,現実的で政治的な緊張を帯びた描写へと進化している.
本作のサイバーテロ描写は前近代的であって,インフラ破壊や情報操作といった現代的サイバー戦争とは一線を画している.冷戦後の過渡期(1991〜2001年)において,ハッカーや暗号解読がアクション映画に無理やり取り込まれた産物なのである.製作陣は,当時のハッキング技術にほとんど無知だった.DVDの音声解説でトラヴォルタは「コードやセキュリティより銃の構え方のほうが重要だった」と語り,技術的正確性よりもスタイルが優先されたことが窺える.脚本に見られるのは,サイバー空間という新たな領域を従来のハリウッド的暴力と組み合わせた商業センスである.21世紀初頭におけるサイバーテロの原始的表象として時代的価値を持つといえるだろうか.
現実のサイバー攻撃が徐々に国家戦略や社会インフラを揺るがす存在へと成長していく中,この映画は過去の幻想――ハッカーは金庫破り,爆破は正義,セクシーな女が秘密を握る――といった陳腐ながらもハリウッド的世界観の最後の咆哮を放っていたのである.オープニングの爆発はワーナー・ブラザーズ史上最も複雑な視覚効果だった.フランティック・フィルムズが撮影した特殊効果には,非常に多くの合成が使われており,ジョナサン・D・クレイン(Jonathan D. Krane),ジョエル・シルヴァー(Joel Silver)ら製作スタッフも何が本物で何がコンピューターで作られたものか判別できなかったという.
++++++++++++++++++++++++++++++
原題: SWORDFISH
監督: ドミニク・セナ
99分/アメリカ/2001年
© 2001 Warner Bros. Entertainment Inc.
![ソードフィッシュ [Blu-ray] ソードフィッシュ [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/51DABtFdjaL._SL500_.jpg)