■「ザ・メキシカン」ゴア・ヴァービンスキー

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 組織の運び屋ジェリーとケンカ別れした恋人のサマンサ.ジェリーは「世界一美しいが愛をも引き裂く」という伝説の拳銃"メキシカン"を受け取りにメキシコへ.しかし不運な偶然が重なり拳銃を奪われたあげく,命を狙われる羽目に.一方のサマンサは,自分の夢を叶えるためラスベガスへ向かう途中で,ジェリーが銃を持ち帰るまでの人質にされてしまう….

 マンティック・コメディの装いをしているが,蓋を開ければむしろ奇妙なバイオレンス作品である.呪われた拳銃"メキシカン"を巡る運命に翻弄される男女の姿を通して,愛と赦しの意味がユーモラスに,また切実に描かれている.混沌は,むしろ作品が描こうとする偶然性と運命の力学を象徴するものであり,混乱の中で育まれる奇妙な信頼関係,メキシコという舞台の土着的な魅力がにじみ出る仕掛けにもなっている.ブラッド・ピット(Brad Pitt)は,従来のハンサムな二枚目像をかなぐり捨て,コミカルでどこか間の抜けた男を好演している.これはピット本人の発案によるもので,撮影中も即興的な演技が多く盛り込まれた.一方のジュリア・ロバーツ(Julia Roberts)は,感情の起伏が激しい役柄にやや過剰な芝居を与えてはいるが,繊細なゲイの殺し屋との会話シーンではその殻を脱ぎ捨て,内面の傷や揺らぎを見せる.

 ジェームズ・ガンドルフィーニ(James Gandolfini)の演技は,作品の重心を担っていると言っても過言ではない.ドラマ「ザ・ソプラノズ」第3シーズンまでの成功後に本作に出演したガンドルフィーニは,暴力と知性,哀しみとユーモアを併せ持つ稀有なキャラクターを体現した.サマンサとの恋愛相談は,殺し屋と人質という非対称の関係を逆転させ,思索を促すユニークな仕掛けである.撮影監督ダリウス・ウォルスキー(Dariusz Wolski)による陰影のある画作りも素晴らしく,緑がかった照明やざらついたフィルムトーンは,メキシコの乾いた空気と「呪われた銃」の伝説性とを融合させ,現実と幻想の間に浮遊するような質感を醸成している.アラン・シルヴェストリ(Alan Silvestri)の音楽は,ラテンアメリカの情熱と哀愁が同居する旋律で,物語にほろ苦い余韻を与えている.

 ロマンスとアクションを横断しつつ,登場人物たちの心理的距離を映し出すシナリオは,呪われた拳銃の伝説が複数の視点から語られることで,民話的な重層性を帯びる.各バージョンの物語が微妙に食い違うのも,語りという行為の主観性を浮き彫りにし,「真実は何か」というメタフィクション的問いかけを含意する.拳銃"メキシカン"は完全なフィクションであり,製作チームが一からデザインしたものだが,過剰な装飾性と呪いの伝承は,まさに西部劇的様式美と寓話の融合である.ブラッド・ピットとジュリア・ロバーツという当時の黄金ペアを起用しながらも,共演シーンを意図的に最小限に抑えている点は面白い.

 マーケティング的には冒険であったが,むしろ両者の不在が語る余白が物語を豊かにし,ガンドルフィーニ演じるゲイの暗殺者という第三のキャラクターを際立たせる結果となった.1940年代のワーナー・ブラザース作品のように,主演俳優の間を支える脇役陣の厚みが,作品に骨格を与えている.呪われた拳銃というマクガフィン(動機づけ装置)を通じて,結末に向けて伏線が収束していく構成は,一見散漫に見えるストーリーラインを統合し,寓話的な円環構造を完成させている.映画全体を通して,ジェリーと他の人物は,ホルスターを付けずに拳銃をウエストバンドの前部に携帯している様子が映し出される.これは本作にちなんで「メキシカン・キャリー」と呼ばれている.

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原題: THE MEXICAN

監督: ゴア・ヴァービンスキー

123分/アメリカ/2001年

© 2001 DreamWorks SKG