■「再会の食卓」ワン・チュアンアン

再会の食卓 [DVD]

 ある日,上海で暮らすユィアーのもとに届いた一通の手紙.そこには,1949年に生き別れた夫イェンションが,40数年ぶりに台湾から帰ってくると記されていた.しかしユィアーには,既に新しい夫ルー・シャンミンと家族がいた.戸惑いながらも元夫を食事に招き,精一杯もてなす一家.しかし,彼には元妻に対する密かな願いがあった….

 湾において国民党政権が長年敷いてきた戒厳令の解除――1987年7月14日――以来,中国大陸との往来も自由化へと向かい,かつて国共内戦に敗れて台湾へと逃れた元国民党軍人たちが,40余年ぶりに祖国の地を踏むことが可能となった.本作は,歴史の裂け目を背景に,引き裂かれた人間関係の再接続を試みるが,そこには時間の重みと個人のエゴイズムが容赦なく立ち現れる.ユィアーは,若き日に生き別れた夫イェンションと再会するため,家族を置き去りにしてまで過去に手を伸ばそうとする.

 ユィアーの選択は,残された人生に悔いを残したくないというもっともらしい動機に支えられているが,その実態は抑えがたい自己中心性にほかならない.対する現在の夫シャンミンは,彼女を引き止めることなく,静かに彼女をイェンションに譲り渡す態度をとるが,そこには若い頃に時代に翻弄された苦悩と,もはや誰にも縛られたくないという,人生に対する諦念が滲んでいる.子どもたちと娘婿もまた,母親の選択に対し,表面上は家庭の崩壊を憂う素振りを見せながら,実際にはそれぞれ自らの利益を最優先して行動する.ある者は金銭で問題を片付けようとし,ある者は無関心を装う.

 家族という最も身近な共同体ですら,無償の愛情や理解ではなく,損得と打算によって織り成されている現実を,本作は冷ややかに映し出す.リニアモーターカーの開通,高層ビル群の林立に見られるとおり,舞台は明らかに2000年代の上海の様相を呈している.にもかかわらず,劇中の設定は1990年代とされる.この時代設定の矛盾は,制作上の制約というより,時間感覚の錯乱を演出する意図と解釈できる.すなわち,40余年ぶりに祖国へ帰還した者にとって,過去と現在が錯綜する感覚を,時代考証の緩さを通じてあえて体感させようとした.

 ハリウッドと中華圏をまたぐリサ・ルー(Lisa Lu)の起用も一層の奥行きを与えている.ユィアーの過去に縋る哀れさと老いの孤独は,観る者に静かな痛みをもたらす.クライマックスで描かれる食卓のシーンには,細やかな演出意図が込められている.卓上に並べられた料理と酒は,和解と再生の象徴のように振る舞いながら,実はそれぞれの人間が心の奥に隠し持つ自己保存本能からくる欲望やエゴを浮かび上がらせる.かつて戦火に引き裂かれた人々が再会を果たしても,かつての純粋な絆を再生することは叶わない.食卓は祝祭ではなく,利己心が交錯する冷たい舞台として立ち現れるのである.

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原題: APART TOGETHER

監督: ワン・チュアンアン

96分/中国/2010年

© 2010 Lightshades Film Productions