| 憲法改正,教育改革,TPPへの参加,原発輸出‥‥アベノミクスの成果が喧伝されるなかで,第2次安倍政権が進めようとしているのはどのような国家体制づくりか.ジャーナリストとして,国家による「内心」への介入や貧困・格差問題,消費増税の問題などを取材してきた著者による渾身の安倍政権論――. |
本書において,特定秘密保護法案の問題点を鋭く浮かび上がらせているのは,トマス・P・M・バーネット(Thomas P.M. Barnett)の言説の大胆な意訳である.バーネットは冷戦終結後に米国防総省と連携して「グローバル・ギャップ理論」を構築した人物であり,"The Pentagon's New Map"は,米国の対外戦略における地政学と市場原理主義の融合モデルとして知られる.
"core"(中心)国家群はグローバルなルール――とりわけ米国的市場経済と自由主義――に準拠し,それに従わない"gap"国家は,「ならず者」とされ,制裁・軍事介入・政権転覆の対象となる.この理論は,あからさまな新植民地主義の再来とも言えるが,それが理念として内在化されることにより,同盟国が自発的に米国的規範へと適応しようとする構造をもたらす.つまり,日本のような模範的衛星国家においては,従属が「自律」として表象される.
このロジックの転倒が,まさに本書が指摘する「国家改造」の本質である.TPP参加,国家戦略特区,産業競争力強化法といった法案は,いずれも規制緩和と外資導入を進める成長戦略の一環だが,その背後には米国通商代表部(USTR)との交渉履歴,経団連の意向が色濃く反映されている.TPP交渉については,日本側の譲歩が交渉当初から既定路線だったことが,後年公開された米国の議会報告書からも明らかになっている.
安倍政権が目指す日本の将来像は明確です.彼の中で「戦後レジーム」とは戦争を否定する日本国憲法のことのみを指すのであって,アメリカの属国であることへの問題意識はかけらほども存在していません.いえ,言葉の印象から導かれる一般の期待とは裏腹に,安倍さんはその現実そのものは嬉々として受け入れ,よりいっそうアメリカに貢献し得る,つまり日本の属国としての値打ちを上げることに尋常ならざる使命感を燃やしているように,私には見えます
一見バラバラに見えるこれらの政策が,特定秘密保護法を「安全保障の名のもとでの統治システム再編」として裏付けるのは,明確な意思の存在を示唆する.秘密保護が必要なのは軍事情報だけでなく,経済交渉,エネルギー政策,企業優遇策――すなわち「公的関心を呼びうる不都合な情報」全般である.「秘密」が行政側の恣意によって規定される構造は,戦前の治安維持法における思想犯の曖昧性と構造的に共通している.2013年当時,日本新聞協会,民放連,NHKも含め,法案への懸念を示す談話を発表していたが,それらの報道は次第にトーンダウンし,法案成立後は「情報漏洩=悪」という単純な図式を定着させた.
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原題: 安倍改憲政権の正体
著者: 斎藤貴男
ISBN: 9784002708713
© 2013 岩波書店
