| 南仏アンティーブの観光名所マリンランドのシャチ調教師ステファニーを突然襲った事故は,彼女の人生を一変させた.シャチの華麗なショーを指揮している最中に事故に遭い,両脚を失う大怪我を負ってしまったのだ.失意のどん底に沈んだ彼女の心を開かせたのは,5歳の少年のシングルファーザー,アリだった.彼は他の人々のように同情心でステファニーに接するのではなく,両脚がないことを知りながら彼女を海の中へ導いていく…. |
ジャック・オーディアール(Jacques Audiard)は,犯罪や暴力の周縁にある人々を描くことに長けてきたが,本作は,その系譜にありながら恋愛映画でもある.シャチ調教師ステファニーは,ショー中の事故によって両脚を失う.彼女に接近するのは,粗暴で思慮に欠けたアマチュアボクサーのアリ.拳を壊す殴り方しか知らない男で,息子の存在にうとましさを感じ,ステファニーに対しても初めは思いやりを持とうとしない.だが,2人は互いの身体的な「欠損」を叩きつけ合うようにして,次第に深い関係へと踏み込んでいく.
性的な接触を通じてはじめて他者と繋がることができる者たちが,光に満ちたコート・ダジュールの海辺で,互いの孤独を埋め合う姿が目に焼き付けられる.注目すべきは,マリオン・コティヤール(Marion Cotillard)演じるステファニーの身体表現である.CG技術により切断された脚を「見せる」演技には,視覚効果に頼らない役者の説得力が求められた.脚の消失には20人を超える視覚効果チームが動員され,海辺のシーンでは波に濡れた肌と光の反射が,彼女の身体をより鮮烈に際立たせた.
アリは,親密さに伴う責任を回避してきた男であり,他人の不安や痛みを抱えることを知らない.だが,息子の命が危険にさらされたとき,彼は初めて感情を爆発させ,凍った湖上の壁を拳が砕けるまで叩き続ける.原題にある「錆」は金属の腐蝕,「骨」は肉体の根源――鉄の味が口中に広がるような暴力と痛みは,愛情の芽生えと不可分である.舞台が二重性を持っている点に気付く.コート・ダジュールの陽光と,終盤に登場する雪原の湖.どちらもフランス南部に実在するロケ地であり,オーディアールは意図的に「温と冷」「光と氷」の両極を配置したという.
ステファニーもまた,事故以前の自己像と訣別し,アリとの関係を通して再び行為する存在へと変貌する.かつてシャチとの共同作業のなかで奇禍を経験した彼女は,再びリスクを負い,アリという異なる種類の「猛獣」と関係を築こうとする.ここに,動物的な本能と社会的な再生が重ねられる.オーディアールは本作で,身体的・社会的な「障害」と恋愛感情の衝突,そして再接近という難題を,暴力とセックス,風景と音響の対比によって見事に編み上げた.冷淡で暴力的に見える者の中にも,崩壊寸前の家族への執着,人間的な親密さを希求する衝動が眠っている.
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原題: DE ROUILLE ET D'OS
監督: ジャック・オーディアール
122分/フランス=ベルギー/2012年
© 2012 Why Not Productions - Page 114 - France 2 Cinema - Les Films du Fleuve ? Lunanime
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