| シミンとナデルはテヘランに住む夫婦.娘のテルメーとナデルの父と4人で暮らしている.シミンは娘の将来を考え,家族揃っての国外移住を考えていたが,夫ナデルの父がアルツハイマーに罹ってしまい,夫は介護の必要な父を残しては行けないと主張してきかない.娘のためには離婚も辞さないと言うシミンは,娘を連れて実家に戻ってしまう.ナデルは家の掃除と父の介護のために,敬虔なイスラム教信者のラジエーという女性を雇う…. |
イスラーム法を規範とするイラン司法制度では,最高裁判所の下にテロ活動や麻薬関連犯罪などを裁く革命裁判所,刑事,民事,家庭裁判を扱う一般裁判所が置かれ,裁判官が検察,判事,調停人の三役を担当している.イスラーム法では,受精後120日以降の胎児は人間と見なされる.そのため,敬虔なイスラム教信者の妊婦ラジエーの流産について,彼女にショックを与えた男ナデルに殺人罪での起訴が検討されることになる.
ナデル一家はテヘラン北部の中流階級,娘の教育のため国外移住を主張する妻シミンを,ナデルは説得して国内にとどまらせ,認知症を患う実父の介護人を雇用させた.雇われた妊婦ラジエーは,南部の下層階級出身.身重でありながら失業した夫を支えることが義務付けられ,生活のため,慣れない介護業に従事することを決める.敬虔なムスリムとしては,排泄物や裸の男性に女性が触れることは禁忌を原則とする.賃金を得るため,ラジエーがその葛藤を抑圧し続けたところに「事件」が起きるのである.
数十年来,イランの離婚率は急増している.本作の製作の2010年前後には,15万組に達していたが,10年前の3倍に及んでいる.女性も中産階級を中心に,黒いヴェールをかぶって革命運動に参加した1979年のイラン・イスラーム革命以来,イスラム的な女性の装い(ヘジャーブ)と貞淑は,家族保護法の見直しにみられるように,わずかに軟化したように見える.その一方,離婚率の上昇と婚姻率の低下を問題視するイラン政府のいくつかの手立て――結婚資金のローンや集団結婚式など婚活支援対策――には,懐疑をもたざるを得ない.シミン/ナデル夫妻と対立するラジエーが,最後に良心を裏切ることができないのは,「コーランにかけて誓え」とナデルに迫られたためであった.
依然としてイラン女性は様々な差別的な超法規的扱いの対象であり,そこではイスラーム法の施行が"錦の御旗"なのである.本作は,第61回ベルリン国際映画祭金熊賞(最高賞)と銀熊賞(男優賞・女優賞)の3冠を獲得し,全女性キャスト,全男性キャストに銀熊賞(男優賞・女優賞)が贈られたという.しかし,イラン文化イスラーム指導省により,アスガー・ファルハディ(Asghar Farhādī)は,2010年から20年間の映画製作・海外旅行・マスコミとの接触禁止を命じられている.
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原題: JODAEIYE NADER AZ SIMIN
監督: アスガー・ファルハディ
123分/イラン/2011年
© 2009 Asghar Farhadi
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