| 1988年シカゴ.クリスは切れ者のニール率いる強盗団の仲間とメキシコの麻薬カルテルの現金貯蔵庫を狙っている.一方,殺人課の刑事ハナは高級住宅地を襲う残忍な連続強盗殺人事件を追っていた‥‥7年後,LAの銀行強盗事件で男たちの運命が交錯したとき,血で血を洗う悲劇が産声をあげる.追う者と追われる者,米国,南米,アジアを跨ぐ犯罪組織の抗争を壮大なスケールで描く,伝説の映画『ヒート』続編――. |
映画「ヒート」(1995)の続編にして前日譚という構成を併せもつ作品である.前作で描かれた人物たちの輪郭を肉付けし,内的世界を言葉によって彫り込むことで,原作映画を再定義する試みである.物語は2つの時間軸で進行する.「ヒート」のクライマックス直後,銃撃戦を生き延びたクリスがロサンゼルスのコリアタウンに潜伏し,執拗に彼を追うハナ刑事との心理・物理的な追跡劇が描かれる.もう一方の時間軸は1988年,クリスとマッコーリー率いる強盗団がシカゴ,メキシコ国境,ロサンゼルスなどで大胆な強盗を重ねていた時代である.この時期,若きハナもまた凶悪なホーム・インベーダーを追っており,警官としての形成期が詳細に描かれる.
二重構造は時間の往還ではない.映画で対峙していた者たちの「根源」を明らかにし,彼らがなぜそのようにしか生きられなかったのかを明示する装置である.「ヒート」では,ハナとマッコーリーは鏡像のような存在だった.どちらも私生活に破綻を抱え,使命感と職業的倫理に突き動かされる点で同質であり,対立軸でありながら互いに共感を育むに至った.本作では,その関係がより多面的に,悲劇的に掘り下げられる.中心的存在となるクリスは,映画では印象的な脇役に過ぎなかったが,本作では彼を軸にして世界が回り出す.忠誠心,家庭への未練,追われる者としての孤独と再生――マイケル・マン(Michael Mann)は「ヒート」製作当時からキャラクターの過去を詳細に設定していた.
ニール・マッコーリーというキャラクターは,実在の銀行強盗で1960年代にFBIに射殺された同名の犯罪者(Neil Ade McCauley)をモデルとしており,マンはマッコーリーを追跡・射殺した元C.I.U.(シカゴ警察犯罪情報分析部門)チャック・アダムソン(Chuck Fredrick Adamson)と共に,長年構想を練っていた.この取材過程で得られたマテリアルが,「ヒート」および本書の中核をなしている.また,マンは脚本を書く前に,すでにTV映画「メイド・イン・L.A.」(1989)という試作品を作っており,そこでもハナとマッコーリーに相当するキャラクターが登場していた.
本書はこうした長年にわたる世界観の累積の成果であり,前日譚としてよりもむしろ,根源譚(オリジン・ストーリー)として読むべきなのである.小説版の強みは,映画では描き切れなかった人物の内面描写と,地理的スケールの拡大にある.LAの夜の犯罪劇は,南米の自由貿易地帯へ,さらには東南アジアにおける犯罪ネットワークへと波及していく.マンが映画「マイアミ・バイス」(2006),「ブラックハット」(2015)で試みた,グローバル犯罪経済の視覚的描写が,小説という媒体においては時間や予算の制限を超えて,さらに濃密に展開されている.とりわけマッコーリーの「犯罪美学」が,国境を超えたグローバル資本と結びつく様は,トランスナショナル犯罪小説として独自の地平を開いた.
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Title: HEAT 2
Author: Michael Mann, Meg Gardiner
ISBN: 4596774404
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